※第三者視点で語る話。



それらの関係は異質だ。
自身はそう感じているが、みるものが変われば意見もまた変わる。人からすれば当然のことが、自身たちにとってはそうではない。
それらも、それらをみて意見する側も、本来なら論を交わすこともない人とは異なる存在なのだから。
或るものに聞けばそれらの関係は理解しうる最高の形だと評するし、或るものは理解しがたいと嫌悪する。
自身は現在そのどちらでもなく、理解してみたい気もするがそうできるとは到底思えはしない――つまりは、一つの興味の対象としての注目をしているわけだ。
この本丸における燭台切光忠と獅子王の二振りは、事もあろうに惚れた腫れたの間柄だ。
自身が顕現した時にはすでに恋仲にあったと聞いている。
初めてそれを聞き、以前から異様に仲がいいようには感じていたが刀がいったい何を言っているのだと首を傾げた自身に、今は人の姿をしているのだからそれに則って何がおかしい、と逆に不思議そうな顔をされた。
そういうものなのだろうかとその場では引いてみせたものの、真に納得ができたわけではない。
当然のように同室を割り当てられている燭台切と獅子王は、それだけでは飽き足らず任務や内番が入っている以外の時も大概共にいる。他を憚ることなく互いの距離は近く、時折じゃれるように手を繋いだり抱き合ったりという姿も目についた。
恋人ごっこに耽るそれらの行動は、まさに“らしい”というもの。
世話好きな燭台切は嬉々として獅子王の世話を焼いてやり、あの見かけ故なのか頼られることに喜びを見出す獅子王も燭台切には甘えてみせる。
その仲の睦まじさだけが常であれば、なにも興味を抱くことはない。
それほどまでに互いを大切にしている風な二振りが、いざ戦場に赴くと途端に干渉しなくなる。その態度の変わり様こそが、自身の興味を引きつけた。
公私の切り替えは大事であるしそれが当然とも思うが、少々度が過ぎているようにも見受けられる。
作戦には忠実であるし、連携もきちんととれているものの、二振りは互いを顧みようとはしない。
どちらかが苦戦を強いられていたり、傷を負ったりしようものなら真っ先に血相を変えて飛んでいきそうなものなのに。庇いにいく素振りもないどころか、表情一つ変えはしない。
普段の有り様から、互いを気にしすぎて面倒なことになったりしないだろうなという自身の懸念を一蹴し、真実刀なのだと示すその姿に、初めてその関係がなんたるかを知りたいと感じた。
戦闘が終わり帰路についた時でさえ、負った傷には触れず、本丸に帰り着き手入れ部屋に向かう一方を見送りもしない。もう本丸に帰ってきているのだから、切り替えを済ませて手入れ部屋まで付き添うくらいしてもよさそうなものなのに。
それでいてその後はまたいつものようにべたべたとくっついているのだから、みている側は心持ちが悪くもなるというものだ。
じっくりと観察してみたところで他のものの考えなどわかるはずもなく、直接聞くしかないと決め込んでとうとう先日それぞれに話を聞いた。
揃ってではなくそれぞれに呼び出したのは、偏に他に寄せない本当の気持ちを暴くためだ。
導入は軽いところから。根本的な問題として本当にあちらが好きなのかと問えば、間を置かず「愛している」と返したのはどちらも同じ。照れもせずの即答には、口の中でじゃりりと砂を噛んだ心地がした。
そこまで想っているのならば、あちらが傷を負えば心配になるものではないのか。
これもまた、示し合わせたように「ならない」とすっぱりした返しがあった。
傷を負うのは己の力不足が故だ。心配なんてする必要がどこにある。自分たちは物であるのだから傷つけば手入れすればいいだけだ。
一瞬にして感情を捨て去ったような瞳で一振りが言った。
心配をするなんて彼に失礼だ。力不足は己が身に染みているのだから、周りがとかく言うこともない。傷は痛むけれどすぐ直る。
ゆっくりと感情を殺そうとしている瞳で一振りが言った。
今は人の身なのだから恋もすると言い放ったのと同じ口から紡がれているとは思えないが、それとこれとは話が別であるらしい。上辺に恋だなんだと言ってはいても、やはり根底では刀としての意識が強いのだろうか。
ただ僅かなずれを感じつつ、続く言葉に耳を傾けた。
多少の傷を負おうとも己の力で乗り切れると信じているからこそ、相手を庇うような真似はしない。手入れ部屋に付き添うくらいならば、今度は自分がそちらの立場にならぬように稽古場にでも篭って己を鍛えることが、ひいては信じてくれている相手のためにもなる。
ここではまた同じようなことを言って、一方は「それにあいつは格好悪い姿をみられることを嫌うからな」と途端に愛おしそうに目を細めた。
なんとなくではあるが関係性がわかってきたような気がしてきたところに、締めくくるように二振りが放った言葉は、物でありながら人の身をもったものならではの考えなのか。
互いの力を信じ過ぎてしまったが故に相手が折れてしまったら、自身もきっとあとを追うだろう。
信頼を裏切られたなどとは微塵も思わず、信じてしまった己の愚を嘆いて自らこの生を終えるだろう。
悔いて嘆いて、そしていずれまたどこかで同じ刀に相見えることがあろうとも、決して恋には落ちないだろう。
だからこれは、この生一度限りの恋なのだ、と。
真っ直ぐな意志を瞳にこめて、どちらとも最後のところは相手には秘密にしてくれと言い置いて話を終えた。

さて、この話を他の刀にしたところで、いったいどれだけが理解できることだろう。
自身とてすべて理解できたとは言えまいが、一つ言うとするならば。
どちら、とは銘打たないが、口ではああ言ったあの刀は、恐らくかの刀を庇って折れるのだろう。
その関係性については呆気なくも興味が失せてしまったが、庇われたかの刀がどんな表情をみせるのか、そこだけはこの目に収めてやりたいものだと思う。






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