奇妙なほどに静かな部屋で、こうして貴方と背を合わせていると、なんとも平和なものだ、と退屈に思ってしまう自分がいるのです――――…


「おーい、幸村」

背にかかる重みが増し、大した力も込めていなかった体はそれに押される形で前のめりになった。

「何でござるか?」

重いという抗議も込めて、凭れている背に逆に体重をかけ、相手の体を押し返しながら答える。

「いや、あんまり静かだから寝ちまったのかと思って」

(あぁ、)

(でも、それは―――…)

「そちらこそ、いつもはあんなに喧しいのに今日は一言も喋らぬではないか」
「…そうだな」

そうしてまた沈黙。

「そういえば」

と、沈黙を破るのはいつも貴方の方だ。

「猿飛はどうしたんだ?」
「…佐助は……確か遣いに出ているでござる」
「そうか」

こうして背中を合わせ座ってただ世間話をするだけ。
ほのぼのしている?
違う、退屈なのだ。
こんな事、口に出しては言えないけれど。

「幸村」
「はい」
「幸村」
「何でござるか?」
「ゆーきーむーらー」
「言いたいことがあるなら申されよ!!」

何度も何度も名前を呼ぶだけの政宗殿に、僅かな苛立ちを覚えた。
叫んだ直後に自分を支えていた重みが急に無くなり、派手な音を立てて背を畳に打ち付け仰向けに倒れる。

「いきなり引くとは卑怯でござるぞ!!」

いったいどんな意地の悪い顔をしているのかと、背を畳につけたまま見上げると、そこにあった予想外に真剣な顔に胸がドキリと脈打った。

「な、如何され…」

いつもと違う政宗殿の纏う空気に、肘をついて起こした体は、力強く腕を引かれたことによりつりあいが崩れ、再び倒れ込んでしまった。
その上、油断していた為に思い切り頭を打ってしまう。

「いっ…政宗殿っ!?」

抗議の目を向けると、少し動けば触れてしまうほど近くに政宗殿の顔があった。

いつもなら頭にかぁっと血が昇る筈なのに、今は不思議とそんなことはなく。

じーっと自分を見つめてくる政宗殿を、ただ見つめ返す。

「幸村…」

名を呼ばれ顔が更に近付いた時でさえ、自然と目を瞑っていた。

頭の中ではきちんと、今の自分はおかしいと理解しているのに、体は何の反応も示さなかった。

ちゅっ、と啄むだけの口付けの音が静かな部屋に響いた。
勿論それだけで終わる筈はなく、より濃厚な接吻の音が部屋に響き、己の体と、空間までもを湿らせている気がした。

「はっ…ん、まさ、むね…どの……っ」
「幸村…」

自然な流れで着物の前が寛げられるのも、政宗殿の手がその中に侵入してくるのも、すんなり受け入れていた―――…。


「政宗、どの…もっ、とっ――…」

そうして、求めるように、政宗殿の背に己の腕を回した。



考えなくたって分かる。

何故あんなことをしたのか。

…退屈だったのだ、すごく。



(魔が差すということの意味)





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