俺のこと忍ばない忍ばないって言うけど、元はと言えば旦那のせいなんだからね―――…。
俺の姿が見えないと弁丸様が泣くから。
そうして忍である俺に向かって「忍ぶな!!」なんて無茶を言ってのけるし。
しかも泣きながらさ。
ほんと、昔から大物だったよ、アンタは。
それからなるべく任務以外では忍ばないようになって、もう癖みたいになっちゃったのに、今になって「忍べ!!」なんて言うもんだから。
どうせ俺がおとなしく忍んでたってすぐに呼ばれて姿を現すことになるのにさ。
忍べって言うならその時間を頂戴っての。
「――け」
「どこだー?佐助ー」
ほうら、言ってる側からまたお呼びだし。
「はいはい。ここに居りますよー」
ったく。忍ぶ暇もないっての。
ま、それだけ旦那の傍に居られるってことなんだけど。
「…ほら、俺様ちゃんと忍んでたっしょ?」
「忍なのだから当然だろう」
ハハハ…まったくその通りでございますとも。
返す言葉もないけど…何でかな…釈然としないや。
「む?どうしたのだ、元気がないようだが…」
「いーえー、何でもありませんよ」
ほんっと何でもないですから。
「で、何の用です?」
「うむ。某の甘味はどこだ?」
「……はーっ」
ほら、これだ。
「さっき食べたからもうありませんよ」
「誠か!?」
「当たり前です」
そんなあからさまにがっかりしたって何も出ないよ。
「佐助……」
「……」
こういう時の旦那は決まって上目遣いでおねだりしてくる。まったく、俺の扱いをよくわかってらっしゃる。
さすが伊達に長い付き合いなわけじゃない。
だから、見ないように極力目を反らす。
だって見ちゃったら断れないもの!!
「佐助ー、腹が減ったー」
ひもじい子供みたいな、切実な声。そんな風に俺を呼ばないでほしい。
だって……
うっ…、見ちゃったよ……あぁ、もう仕方ないなー。
「今作ってくるから待ってて」
「おぉ!!やはり佐助は頼れる忍だな!」
「あはは。そうでしょうとも」
なーんて…こんなの忍の仕事じゃないっての!!
…忍の仕事って何だっけ?
てか寧ろ、俺の仕事って何だっけ?
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