筆頭が狂ってます。
皆の扱いがとにかく酷い。
佐助と幸村が可哀想。
死ネタ注意。






















政宗との決戦に敗れた幸村は、最期の時が訪れるのを潔く目を閉じて待っていた。
しかし、いつまで経っても止めが刺されることはなく――代わりに幸村に与えられたのは、腹部への鈍い痛み。

そうして、幸村の意識は闇に囚われた――…。



次に幸村が目を覚ましたのは、冷たい石に囲われ、鉄格子の窓から少しの日が差す牢獄だった。石畳の上に平常の畳が敷かれ、幸村はその上に横たわっていた。
差し込む日の位置からは、この牢獄が地上からだいぶ高いところにあることが窺えた。
手足には枷が嵌められ、身体を覆う衣服は薄い生地の着物だけ。
そこへ、幸村が意識を取り戻したのを見計らったかのように、牢獄の主である政宗が姿をみせた。
静かなる怒りを込め、これは何事かと問う幸村に、政宗はお前が欲しいのだと答えた。
言葉の意味を解するより先に、政宗の手が幸村の顎を捉え自らの唇を幸村のそれへと重ね、閉ざされたそこを舌でこじ開ける。
幸村はすかさず侵入してきた生温かい異物に噛み付き、途端に殴り飛ばされる。疲弊していた身体は呆気ないほど容易く固い床へと打ち付けられた。
屈辱に身を震わせながら自身を睨み付ける幸村の腹を、政宗は勢いよく蹴り上げた。
叫びを噛み殺し苦しみに悶える幸村にはお構いなしに、政宗は申し訳程度に着せていた衣服を剥いでいく。
身の危険に、幸村は痛む身体を懸命にばたつかせるが、鎖の重さも邪魔をして然したる抵抗にはならない。そんな幸村の態度を意にも介さず、政宗は幸村を蹂躙していく。
こんな屈辱を受け入れられるわけなど毛頭なく、幸村は唯一自由になる口で舌を噛み切り自害しようとした。しかし、そんなことは予想済みだった政宗に口に布を詰め込まれ、阻まれる。
どうすることもできず犯されゆく悲痛な叫びは声になることはなく、口内を満たす布へと吸収された。

その後、漸く解放された幸村は心身ともにぼろぼろで、もはや抵抗する気力さえ残されていないようだった。
そんな幸村の姿に、政宗はなんとも言い得ぬ笑みを浮かべた。
やっと手に入れた紅い炎は、ほろ苦くも十分心満ちるほど甘美であった。

政宗がいない間、幸村の口には自害を防止するための布が食まされ、食事は必ず政宗が自らの手で食べさせる。
食べる気など起きない、口にしても喉を通らないものを政宗によって無理矢理口にさせられる行為は、苦痛以外のなにものでもなかった。

次第に精神が崩壊し、既に生気をも失った廃人ともつかぬ幸村だが、一度(ひとたび)意識を取り戻しては、こんなことをするくらいならいっそ殺してくれと叫び悲鳴を上げる。
誰にも聞かれることのない、聞き入れられることのない叫びは、冷えた空気に無情にも溶けるのみ。



幸村の身体には、幾つもの痛ましい傷痕が刻まれていた。戦場で負ったのではない、名誉も何もありはしない惨たらしい傷が。
自由を奪うための枷は、もう嵌められてはいない。勿論、自害を防ぐための口の布も――動くことも考えることもなくなった人形に、そんなものは必要ないと政宗が判断したからだ。
政宗を虜にした力強さを湛えた紅い瞳は見る影もなく、今やそれも一つしか存在しない。
いつか、政宗は自分と同じだなどと言って笑っていたが、幸村の心は僅かばかりも動かなかった。
何も映すことのない瞳など、幸村にとって在っても無くても同じなのだ。


前に未だ幸村の意識が少しでも残っていた頃に、政宗は言った。
忍はまだ殺していない、と。
そう楽には殺してやらない。今はこことは別の牢獄で死よりも辛い拷問を受けているのだ、と。
こことは違う日の差さない薄暗い牢獄で。佐助も、幸村のように殺してくれと何度も叫んだだろうか。
きっと幸村よりも辛い仕打ちをその身に受けて、悲鳴に喉を潰しているだろう。
幸村はぼんやりとする意識の中で、月のように笑うその男のことを思い出すともなしに心に浮かべた。


そんなある日、政宗が後ろに奇妙なものを連れてやって来た。
よくみれば、それは人の形をしているのだ。
生きているのが不思議なほどの傷が全身を覆い、血臭と焼け焦げたような臭いを纏った、いつ死んでしまってもおかしくはないような――…。
しかし、幸村の一つしかない瞳には、薄ぼんやりとしかその姿は映らない。
政宗は躊躇いなくそれを蹴り飛ばし、幸村の横へと転がした。
それでも何の反応も示さない幸村に、政宗は傍に寄って虚ろなその顔を掴み、転がるそれの方へと向かせた。
それは、潰れているであろう喉から呻き声らしきものを漏らし、次いで幸村に向かって『旦那』と呟いた。声にはなっていなかったが、幸村の耳には確かにそう聞こえた。
幸村の頬を撫でながら、政宗は言った。
これが何だかわかるか、と。
勿論、幸村は答えない。政宗もそれを承知で聞いているのだ。
そうして、こう言った。
これはお前の大事にしていた忍だ、と。
幸村は微かに反応したようにみえたが、本当に些細な程度だったため政宗は気付けず、更に続けた。
そろそろこいつにも飽きてきた。それに、もうこの身体は駄目なのだ。だから今日せめてお前のみている前で殺してやるために連れてきたのだ、と。

そう言って、尚も散々もはや微かな反応しか示さず声すら発さぬその塊をいたぶって焦らした後、政宗は幸村の目の前で佐助だと言ったそれに剣を突き立て息の根を止めた。
最期の時、潰れて表情の窺えないその顔は笑っているようだった。
それでも、幸村はぼんやりとそちらを眺めるだけで動こうとはしない。
幸村はまるで夢でもみているかのような感覚に捉われていた。

政宗に囚われ凌辱されて、幸村の精神はとうの昔に崩壊し、もう年月を数えることすら忘れた。感情もなにもかもが消え失せたと思っていた。
目から溢れ、頬を伝っていた透明な滴は既に枯れ果て、代わりに赤い滴が流れる。


幾つばかりの時が経った頃だったか、幸村の頭の中に誰かが自分を『旦那』と呼ぶ声が聞こえてきたのは。
虚ろに目を彷徨わせると、格子の向こう側。みえていない筈の瞳に自分を手招く佐助の姿がはっきりと映った。
自分から動くことなど随分長い間していなかった幸村はふらふらと立ち上がり、幾度と転びながら覚束ない足取りで格子へと近付いていく。

 ――さ…すけ……

最後に言葉を発したのはいつだったか。こんな顔をしたのはいつだっただろうかと。知らず知らずのうちに――幸村の顔にはとうに忘れたと思っていた笑みが浮かんでいた。

幸村は、人一人が辛うじて通り抜けられる大きさの格子へと身を寄せた。
常日頃からたいした世話もされていなかった格子は錆びて脆くなっていたようで、幸村が少し体重をかけると容易に外れてしまった。
そうして、幸村は格子のなくなった窓から佐助が手招く暁の空へと身を躍らせた。

地上では、外れた格子がばらばらと地面に落ちて転げ、間もなく、なんとも言えぬ悲痛な音をさせて人が降ってきた。

それを知った政宗は驚愕に独眼を見開き、狂ったように泣き叫んだ。
今までにみたこともないような主の姿をこれ以上はみせまいと、小十郎はその場にいた者達を屋敷の中へと誘導した。

皆の立ち去ったその場には、政宗と潰れてみるも無残な姿と化した幸村の亡骸だけ。
政宗はふと糸が切れたように叫ぶのを止めたかと思うと、口角を吊り上げ歪に笑い、目の前の塊の頭と思しき部分を自分の胸に掻き抱き、涙を頬に流したまま更に笑みを深くした。
それは周りからすればさぞ不気味な光景だったことだろう。
幸いと、その姿を目にしたものはいなかったが。天すらも、どこからか現れた雲に遮られ見通すことは不可能だった。

政宗は、いつからか狂っていた。狂わされていた。
紅い虎の子に。紅き焔に魅せられて――それは強すぎた光だったがために、焔は儚く散って逝った。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

今頃彼方の世界では、ある人物によって悲惨に彩られた人生に幕を下ろした主を愛した忍と、忍を愛した紅き焔が幸せに暮らしていることだろう。
そして、罪を犯した憐れな独眼の竜は、今尚地上で紅き焔に魅せられていることだ。



−−−−−−−−−−−−−
寝る寸前に浮かんで殴り書きしたものです。
狂っちゃった政宗様。
何か皆可哀想だったですね。
でも佐助と幸村はあっちで幸せに暮らすんですよ。政宗様ごめんね。
こういう暗い話書くのって大好きです。




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