「あの、雲雀さん…」
「何?今忙しいんだけど」
【放課後恋愛式】
「…やっぱり、オレ外で待って「ダメ」
「………」
放課後になると応接室へ足を運ぶのが日課になったのは、最近できたばかりの恋人、雲雀さんと一緒に帰るため。
始めの頃は雲雀さんの仕事が終わるまで外で暇を潰して待っていたのだが、それを知った雲雀さんが中で待つようにと応接室に入れてくれたのだ。
しかし……
「でも、忙しいって…」
「言ってない」
「言いましたよ」
「覚えてない」
「………」
オレはただ雲雀さんが仕事をしている様子を見ているだけで、何をするでもなくただ待っている事しかできなくて。もちろん仕事を手伝う事もできない。そんなオレがここに居てもいいのか、もしかしたら邪魔なんじゃないか、なんて思ってしまうのは当然のことだと思う。
「…本当に邪魔じゃないですか?」
少し時間をおいてからもう一度聞いてみた。
「まだ言ってるの?君が居るくらいで僕の仕事に影響なんて出ないよ」
たぶんそれは本当の事だろう。実際、仕事のペースはいつもと変わらないようだった。
「すいません」
「…君が謝ることないでしょ。けど、君がそんなに気にするなら別に待ってなくてもいいよ」
「え?」
「先に帰ってもいい。そのかわり、1人で帰るのはダメだから。不本意だけど、誰かに送ってもらって……」
*****
まったく…季節は秋も終りの頃で外はそれなりに冷えるというのに、この子は平気で外で待つと言う。風邪を引いてしまう可能性もあるとわかっていて、大切な恋人をそんな所に放置する事ができるはずがない。
だいたい、外に放置なんてした日には絶対にあの南国フルーツがちょっかいを出してくるに決まってる。一人で帰らせるのも同様だ。
この子はその辺がまだ無自覚で、自分がどんな存在か認識できていないから厄介だ。
「何でそんな事言うんですか…」
ふとその声が震えている気がしてそちらを向くと、今にも泣きそうな彼と目が合う。
*****
「綱吉…?」
「オレは、雲雀さんと一緒に帰りたいんです。確かに、始めはオレが押し付けがましく待ってたから一緒に帰ってくれるのかと思ってました…けど、ここで待ってて良いって言われてオレは…っ」
とうとうオレは涙をこらえきれずに泣き出してしまった。
「…今のは僕が悪かったよ。僕はただ、君があまりにも無防備だから」
「何がですかっ」
語尾が強くなる。
上手く感情をセーブできない。
(オレは本当に嬉しかったのに。少しでも一緒にいられる時間が増えて―――)
「僕は君だったら全然邪魔に思わない。むしろ君が傍に居てくれると安心する」
顔を上げると、いつの間にか雲雀さんがすぐ近くにいて、その真剣な瞳とぶつかる。
「君がここに居る間は変な奴らに絡まれてないか心配することもないし、少しでも長く一緒にいられるし……」
そこでふと、雲雀さんが顔を背けた。
雲雀さんも同じ気持ちだったのだと、その言葉は心にじわりと染みて、熱を持つ。
涙はいつの間にか止まっていた。
「………そのくらい」
そっぽを向いたまま雲雀さんが言葉を紡ぐ。
「そのくらい、言わなくてもわかりなよ!」
(――――っ!!)
顔が見えなくても、雲雀さんが照れているであろうことはわかる。
(あぁ、この人は言葉が少なくて、人付き合いに不器用な人だった)
「雲雀さん」
名前を呼んでもこちらを向いてはくれない。
「オレもです」
「何が」
「オレも、少しでも長く雲雀さんと一緒にいられると嬉しいです」
言いながらその不器用な背中に抱きついた。
それも束の間の事で、すぐにそれを解いてオレの方に向き直った雲雀さんは、怪訝そうな表情でオレの顔を覗き込む。オレの言葉が信じられないというように。
そんな態度にさえもオレは愛しさを感じて、自然と笑みが溢れた。
次の瞬間、雲雀さんの目が一瞬だけ細められて。
それが笑みだったのだと気付いた時には、ふっと顔を近づけてきた雲雀さんにキスをされた後だった。
「さぁ、帰ろうか」
すぐにオレから離れた雲雀さんは、驚きに目をぱちくりさせているオレを余所にさっさと帰り支度を行っている。
こちらからではその表情を窺い知ることはできない。
かなりの驚きと、少しばかりの高揚感。
色々な思いがオレの中で渦巻いている。
「何いつまでも突っ立ってるの、置いてくよ」
「あ、はいっ!!」
その言葉で意識を引き戻されたオレは、ソファーの上に置いていた鞄を手に取り慌ててドアの所で待ってくれている雲雀さんの元に駆け寄る。
まだその胸の奥に淡い高揚を残したまま――――
応接室に君と僕、それは幸せの方程式
『応接室+君+僕= 』
−−−−−−−−−−−−−
「くっ、雲雀恭弥。僕から綱吉君を奪おうなんて…しかも、ここのところ綱吉君の周りにはいつも誰かが居て近付けない。禁断症状が出てしまいそうですよ………キイィィーー!!」
…↑の骸さんはハンカチとか噛んでそうなイメージで。
たぶん骸は雲雀と綱が付き合いだした事をまだ知りません。
最後の『』内スペースはご想像におまかせします。
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