「ねぇ、骸」
屈托のない笑顔を向けてくれた君。
けれどそれは、僕だけに向けられたものではなかった。
皆に向けられたその笑顔は、今や見る影もない―――…。
「綱吉君。愛してます」
(だからこそ、君の瞳に僕以外の者が映ることが耐えられなかった)
「愛してますよ」
「狂おしいまでに」
どれ程の愛を語っても、どれ程の愛を形にしても、彼からの返事が返ってくることはない。
…―――ただひたすらに、苦痛に満ちた喘ぎと(それは悲痛の叫びにも聞こえ)、涙を流し嗚咽を繰り返す。
最初の内聞こえていたそれらも次第に小さくなり…今ではもう、聞こえない。
静寂の中に時折聞こえるのは、ベッドのスプリングが軋む音と、狂った者が狂わせた者に紡ぐ愛の言葉。
「ねぇ、綱吉君」
「君はもう僕のモノですよ」
返事のない、二度と動くことのない愛しい人を抱きしめて永遠と繰り返す愛の言葉。
この狭い空間の中に。
永遠に二人きりだと、背筋が凍るような笑顔で。
繰り返し繰り返し愛する彼の名を呼ぶ。
自分の名を呼ばれることのない空間で。
彼以外の一切のことを忘れてしまったかのように。
それはさながら壊れた人形。
「ねぇ、骸。オレたちはどこで間違ってしまったんだろう」
(さぁ、それはきっと…そう、最初から。君に出会った瞬間から、全ては狂い出していた)
狂った歯車は、自分の手では直せない。
錆びた歯車は、もう元には戻らない。
罅入った歯車は、補われず。
それでも歯車は止まらない。
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綱吉を愛するあまり監禁して殺してしまう狂った骸さんのお話。
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