「おい、お前…」
ルルーシュは、先程から自分の左腕に背を丸めてまで絡まっているジノに目を向けた。
「いい加減離してくれないか」
「そうだよ。兄さんが嫌がってるだろ」
はっきりとした拒絶を示す言葉に、これまたルルーシュの右腕にちんまりと絡まっているロロが口を開く。
ロロは先程からこの調子でルルーシュ越しにジノを威嚇しまくっていた。
廊下を歩いていたルルーシュは、後ろから名を呼ばれ足を止めた。
振り返り、声の主がジノだと分かった時はどうしたものかと思ったが、ここで逃げれば不審に思われてしまうだろうと判断し仕方なくその場に止まった。
「こんにちは、ルルーシュ先輩」
近付いてきたジノは、唐突にルルーシュの左腕に自分の腕を絡めた。
「ぅわっ何…」
「ルルーシュ先輩が逃げないように」
「俺が逃げるわけないでしょう」
「…それはわかんないじゃないですか」
ジノはそう言いつつ、片腕はルルーシュの腕に絡め動きを封じたまま、もう片方をルルーシュの腰に移動させる。
「っ!!」
腰を撫でるように触られ、ゾクッと鳥肌が立つ。
「ルルーシュ先輩ほっそいっすねー」
「やめ…」
「ちょっと!!」
そこに、まるでタイミングを見計らったかのようにロロが現れた。
「僕の兄さんから離れてよ」
「ロロ…」
つかつかと歩み寄ってきたロロは、ルルーシュの腰に当てられていたジノの手をパシンッと勢いよく払った後、対抗するようにルルーシュの右腕に絡まってきた。
「おい、ロロ…」
「兄さんは僕のなんだから」
「ふーん。小さいくせに言うねぇ」
「ムカッ」
それから数分、ルルーシュの言葉を完全に無視したジノとロロによる舌戦が繰り広げられ(しかも廊下という公衆の面前で)、間に挟まれたままのルルーシュはいい加減うんざりしていた。
辟易するルルーシュの元に、今度はスザクが登場する。
偶々その場を通りがかったスザクは、廊下で騒いでいる三人(正確には二人だが)を見て目を丸くした。
「お前たち、何やってるんだ!!」
スザクは慌てて三人に駆け寄る。
「「「スザクっ」」」
その姿に、三人が同時に名を呼んだ。
「まったく、お前たちは…」
ルルーシュの両腕にくっついている二人と、うんざり顔のルルーシュを見て、粗方の状況を把握したスザクが呆れ気味に溜め息を吐き出す。
「別に誰にも迷惑かけてないぜ」
「廊下を通る人に迷惑だろ」
「あー…なるほど」
「待て、俺もたいがい迷惑しているんだが…」
おそらく自分が一番迷惑しているのではないかとルルーシュが不満を漏らす。
依然、ルルーシュはジノとロロに挟まれたままだ。
「迷惑でした?」
「「当たり前だろ」」
不思議そうに問うてくるジノに、ルルーシュとおまけにロロが答える。
するとジノはお前には聞いてないとばかりにロロに一瞥をくれてやり、ルルーシュには殊勝そうに項垂れてみせる。
「そっか…ごめんなさい」
「わかればいい。……だからいい加減離れろ」
詫びつつも一向に左腕を解放しようとしないジノに、ルルーシュはこいつは本当に反省しているのかと疑いたくなった。
「そうだよ」
「いや、お前もだよ、ロロ」
まるで他人事のように同意するロロに対してもルルーシュは腕を解放するように促す。
「今度はおとなしくしてるから、もうちょっとだけ」
「僕も」
「弟君は離してあげなよ」
「離すのはあなたの方でしょ」
言ったそばから口論が始まる。このままいくとまた舌戦になるだろう。
「お前らいい加減に…」
「いい加減にしないかお前たち!!」
しろ、と続くはずだった言葉は、それまで成り行きを傍観していたスザクによって遮られる。
本気で怒るスザクの剣幕に、流石のジノも渋々腕を解放する。ロロも同様だ。
「ありがとう、スザク。助かった」
ほとほと疲れ果てていたルルーシュは素直に礼を述べる。
「別に、君のためじゃない」
スザクはついと顔を背けてジノに向き直ると、真剣な様子でその場で説教を始めた。
「お前にはナイト・オブ・ラウンズである自覚はないのか。だいたいお前は…」
長くなりそうな予感に辟易しながらも、それぞれ思うところは別にあったようだ。
(スザクがあそこまで本気で怒るなんて…スザクはもしかしてジノが好きなのか?…あり得ない話じゃない。ジノが好きだから、俺と腕を組むジノを見るのが嫌だったのか。好きな奴が他の奴にベタベタしてる光景なんて見たくないからな)
と、すごく誤解のある結論を出したルルーシュ。
(なるほど。スザクってばルルーシュのことが好きだったのか。だとしても、俺は負けないけど)
と、正確な結論を出し対抗意識を燃やしたジノ。
(二人とも兄さんに気があるんだ。けど、兄さんは僕のものだ。僕が守る)
と、決意を新たにしたロロ。
(ロロもジノも本気なのか。俺は…どうすればいい?いや、どうしたい?…とにかく、ルルーシュは渡さない)
と、戸惑いながらも決心したスザク。
そして、一人誤解したままのルルーシュを除く三人の間に火花が散る。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「今日、あんなにもスザクが怒っていたのは、ジノのことが好きだからだろう?」
「どうする?すっげぇ誤解されてるけど」
「俺がお前を好きだと誤解していようと、ルルーシュが俺に遠慮してお前と距離をとる…なんてことはないから安心しろ」
「…大丈夫だよ。距離なんてもともととられているしね」
(兄さんってやっぱりどっか抜けてる?いや、鈍感なだけか…。まぁ、そんなところが可愛いんだけど)
こうしてルルーシュの預かり知らぬところで火蓋は切って落とされた。
(…?悪寒が……)
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