「おーい、ライー!ちょっとこっち来てみろよー」
ライがそちらに視線を向けると、少し離れた位置からコノエが笑顔で手招きをしていた。
あいつのことだからどうせろくなことじゃないだろう。
決めつけて、ライはコノエから元あったところに視線を戻す。
「…なぜ俺が」
「おいってば」
行かなければならないんだ、と続けようとしたライの言葉は、すぐそばに来たコノエに遮られる。
「何だ」
「だから、ちょっと来いって言ってるだろ」
「俺も何故行かなければならないのかと聞いたが」
実際は途中までしか言っていないのだが、そこはしれっと誤魔化す。
「…聞こえなかった」
むっとした様子のコノエはそれでも尚その場に連れて行きたいらしく、ライの腕を引っ張り始めた。
「おい待て。理由くらい説明しろ」
「いいから、来たらわかる」
いったい何がいいんだ。
そう思いつつも、引き下がる様子のないコノエに、ライは仕方なくついて行ってやることにした。
「ほら、見てみろよ」
コノエが指差さした箇所にライが目を向けると、そこにはたった一輪、白い花が咲いていた。
「これが何だ」
ライが訝しげに問うと、コノエからは満面の笑みが返ってくる。
「この花さ、何かライに似てないか?」
「…はぁ?」
「俺、その…上手く説明する自信がないんだけど……こうさ、周りは雑草だらけなのに、負けずに凛と咲いててさ、凄く綺麗だと思うんだ。そういう、凛とした所とか、一輪でも枯れずに頑張ってる所とか…勿論、白くて綺麗な所も」
「………」
コノエのたどたどしい言葉に衝撃を受け、ライは何の言葉も発せずただ目を丸くした。
「でも、これは過去のライだよな」
少し考えた後、再びコノエが口を開いた。
「…何?」
「だって、今のお前は一匹じゃないだろ。俺がいる」
屈託のない笑顔で何気なく放たれた言葉に、ライはまた衝撃を受ける。
だが、そう言われれば確かにそうだ。
今ではコノエが隣にいることが当たり前になっていたが…。
「そうだな」
微笑を浮かべてそう返すと、コノエは当たり前だろと言うように胸を張ってみせる。
「調子に乗るなよ、馬鹿猫が」
「っ!!」
隙だらけな唇に触れるだけの口付けを落とす。飛び上がって驚くコノエの相変わらず初々しい反応に気分をよくして、ライは唇に弧を描き踵を返す。
その背を追うように、コノエもライの後に続いた。
一輪だった白い花の隣には、一つの新しい命が寄り添うように芽吹く。
白い花ほど大きくはないが、芯の強い花が、身を寄せ合い互いを支えるように。
寄り添う体温に
(触れることを恐れはしない)
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