※紅雀BADEND後の紅蒼









「オールメイト…じゃない。猫がどうしてこんなところに」
艶のある黒い毛並、こちらを振り向いたその瞳はルビーのような赤色だった。
蒼葉の姿を認識した途端、猫はその毛を逆立て、小さな体からフーフーと威嚇するような声を上げた。
蒼葉は構わず、しゃがみこんで手を伸ばしてみる。
一際警戒の色を強くした猫に、怯むことなく更に手を近づける。

それは、半ば予想していたことかもしれない。
一線を超えてしまったのだろう。一瞬の隙に、差し出した手に鋭い痛みが走り、透けるような白い肌に赤い筋が伝う。
ジッと引っかかれた箇所を見つめ、ゆっくり立ち上がると、蒼葉はその赤に舌を這わせた。
まるで、紅雀のようだ。
そう思っていた蒼葉は、猫の態度に苛立ちめいたものを覚えた。もしくは、諦めに似た何か。

お前も、俺のことが嫌いだというのか…。

無表情に流れる血を舐め、何の感情も示さない瞳を自分から距離をとった猫に向けると、そのまま唇だけを歪に吊り上げた。

本能的に恐怖を感じ取ったのか、じりじりと後ずさった猫は、俊敏な動きで身を翻しそのままどこかへと走り去っていった。

猫にすら嫌われる、か…。
もしも『蒼葉』ならば、あの猫は懐いたのだろうか。
牙を剥くどころか、舌を出して餌を強請っただろうか――…。


「紅雀」
キィッと音を立てた鉄格子の扉から身を滑り込ませ、愛しい名を呼べば、グルルと獣のような返事が返ってくる。
「いい子にしていた?」
威嚇するように唸る紅雀に躊躇いなく近付く。
あぁ、やっぱりあの猫は紅雀に似ていたな。
改めてそんなことを思っていると、ふいに唸るのをやめた紅雀がある一点をジッと見つめる。
その視線を辿り、あぁ、と納得した蒼葉は、それを爛々と光る眼前に差し出した。
「お前によく似た獣にやられたんだ」
触れるほどまで手を伸ばすと、ガチャンと鎖の揺れる音が冷えた牢に響く。
「っ」
瞬間、燃えるような痛みが走り、小さな獣につけられた傷を覆うようにしていた包帯に血が滲む。
ギリギリと今尚蒼葉を支配する痛み。
包帯の上、手を噛み千切らんばかりに歯を立てて唸る紅雀に、まるで嫉妬されているようではないかと恍惚とした笑みが浮かぶ。
「ごめん、紅雀。もう、お前以外の奴に傷をつけさせたりしないから」
咥えられた手はそのままに、もう一方の手で抱き込むようにして紅雀の頭を撫でる。
「愛してるよ、紅雀」
真っ白な包帯を己の色に染め上げるように徐々に広がっていく赤に興奮を覚えながら、蒼葉は心からその言葉を口にした。



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**** *


**

「え?あぁ、あの猫ですか。あれはたまたま見つけたんですよ」
「見つけたのは俺ね」
「それで、蒼葉さんに見せたらどうなるか実験してみようということになりまして」
「そうそう」
「まさか、蒼葉さんを傷つけるところまで似ているとは思いませんでしたけど」
「今の蒼葉に赤は映えるけど、他の奴に傷つけられるのは嫌だ」
「はい?あの猫ですか?…さぁ、もう自分の居場所に帰ったんじゃないですかね」
「自分にお似合いの、薄暗い路地に、ね」







(身勝手な生き物)




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