ぴちょんぴちょんと滴の垂れる髪の水分を大雑把にタオルで飛ばして、マットを湿らせている体もバスタオルで軽く拭いていく。
湯上りでほかほかと温まった体にTシャツと半ズボンを纏って、タオルを頭に被せたまま洗面所を出てリビングの扉を開ける。
ガチャリ。音に反応して、ソファに腰掛けてまったりとテレビを見ていた菅原が振り返った。
先に風呂を済ませた菅原もまた、日向と同じようにTシャツに半ズボンというラフな格好だ。
にこりと笑みを浮かべた菅原においでおいでと手招きされるままに、飼い主に呼ばれた犬宜しく小走りでそちらに向かう。
テレビを消してソファからカーペットに座り直した菅原の足の間に、背を預ける形で腰を下ろした。

「ちゃんとあったまったか?」
「ばっちり、です!ちゃんと湯船で100まで数えてきました!」
「おー、えらいえらい」

顔を上げて後ろの菅原に誇らしげに答えれば、優しく目元を緩めた菅原がタオルの上からわしわしと頭を撫でてくれる。
子供扱い、と思わないでもないが、事実上日向は菅原よりも年下であるのだし、自分を想ってのことだとわかるから、嬉しさを全面に押し出して日向は笑う。
それに、こういう他愛のない触れ合いは相手の気持ちが伝わってくるようで、単純に好きだった。

「じゃあ、髪乾かすから前向いてな」
「はい」

予め準備していたドライヤーを手に取って言った菅原に元気よく返事をして、言われるまま顎を引く。
頭からタオルの微かな重みが消えて、カチリとスイッチの入る音と共に温かな風がしっとりした髪を揺らした。
最近のドライヤーは音が静かで、会話も問題なく行えるだろうが、敢えてそうしようとは思わない。
耳を澄ませて相手の動きにだけ心を傾けて、穏やかな幸福に浸る。
髪を乾かすというのは特別な行為のように思えて、あぁ、好きだな、という気持ちがふるふると心に満ちる。
この行為はもはや恒例化していて、お互いにとっての癒しタイムになっていた。

「よし、終了っと。ふわふわで触り心地ばっちり」

ドライヤーのスイッチを切って床に置いた菅原が、ふわりと柔らかい仕上がりになった髪を梳いて、自分と同じ香りのするそこにチュッと唇を落とした。
それまで閉じていた瞳を開いて擽ったそうに笑った日向が、髪を乾かしやすいように少し空けていた距離を埋めてぴたりと菅原に背を預け、顔を上げる。

「菅原さんの手、優しくて気持ちくて大好きです」
「嬉しいこと言ってくれんなぁ」
「だってホントのことですもん」

ご褒美にチュウしてやんべ、と冗談めかして言った菅原に顔を真っ赤にした日向は、けれど欲求のままに素直に目を閉じた。
くすくすと楽しそうに笑った気配が近付いて、待ち構えていた温もりが唇に重なる。
チュッチュッと数度戯れるように触れ合わせて離れていったそれに、日向はそっと瞼を持ち上げた。
目が合えばそれだけで嬉しくて、けれど菅原の瞳に映る自分を見るのが気恥ずかしくて、体勢を変えるふりを装って視線を外した。
それを咎めるように改めて後ろから抱きすくめられて、肩口に額が擦り付けられて色素の薄い髪がさらさらと揺れる。
今度は乾かす方をかって出てみようか、なんてことを、日向は首元を擽るそれを見るともなしに視界に捉えながら考えた。

温かくて気持ちいからもうちょいこのままで、と甘えるように言った菅原に頷いて、自分を包み込む体温に身を任せる。
ふわりと漂う自分と同じ石鹸の香りに、ふへへとつい笑いが漏れた。
のそりと顔を上げた菅原に、いつもより少し低めの柔らかなトーンでどうしたのかと問われて、耳がぞわぞわとして堪らず肩を竦める。

「なーに、どうした?」
「その、同じ匂いだなーと思って、嬉しくて」
「だな。でも、日向の方がなんか甘い気がする」

重ねて問われて素直に胸の内を明かせば、匂いを嗅ぐように首元に顔が寄せられ、擽ったさに身を捩る。
風呂上りだから然したる抵抗はないものの、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。

「菅原さん、…」
「んー」

擽ったいという意思を込めて腰に回っていた手を掴むと、ぐらりと体が傾いで、抱きしめられたまま横向きにカーペットの上に転がった。
菅原の腕がクッションになってくれたおかげで痛みはなく、ふかふかとした柔らかさが頬に触れる。

「あーなんかいい夢見れそ」
「あの、寝るならベッドへ…」
「誘ってる?」
「ち、ちがっ…いません、けど」
「ふはは、日向は可愛いなー」

後ろからチュッと項にキスされて、日向はビクッと体を跳ねさせる。
けれど、菅原が動く気配は依然なく、ドキドキと逸る鼓動を抑えるようにキュッと目を閉じた。
次第にその体勢にも慣れてきて心が落ち着いてくると、ゆったりと顔を出した睡魔に瞼が重くなってくる。
二人を取り巻く空気は静かなのにほわりと温かくて、伝わる体温だけがこの世の全てのようで。

微睡むような甘やかさに眩暈がした。




****

菅原さんが日向の髪乾かしてるの可愛いんじゃないかと。



[*前] | [次#]





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -