「ねーねー黒子っちー。今度の休み、一緒に買い物行かないっスか?」
「生憎と、今特に欲しいものがないので」
「えー」
「それより、暑いので離れてくれませんか」

部活に顔を出した黒子に背後から抱き着いた黄瀬は、ぶうぶうと不満気に唇を尖らせた。
腹に回していた手に力を込めて、せめてもの黒子補給というように肩にぐりぐりと額を押し付ける様はまるで子供だ。
黒子の視界の隅、柔らかな金色がふるふる揺れる。
ぽんぽんとその頭を撫でてやれば、黄瀬の動きがぴたりと止まり、やがて渋々と高い体温が離れて行く。
また誘ってもいいかと問われ、頷きながらも、それにいい返事が出来るかわからないけれどと考える黒子に、黄瀬もまた内心の複雑な感情をひた隠して笑んだ。


「くーろちん。これ、新作なんだけど、半分こしよ」
「あぁ、そういえばこの前言ってましたね。もう出たんですか」
「今日が発売日。もし当たりだったら、帰りに一緒に買い溜めしに行かない?」
「すみません。今日は少し用があるので」

むうっと頬を膨らませぶすくれた紫原が、とりあえず半分こ、と持っていたお菓子を差し出す。
黒子がそれを受け取ると、頭部にずしりと重みがかかる。
率直に重いと抗議するも、拗ねているのか返るのは無言のみで、仕方なくそのままの状態でお菓子を咀嚼する。
人の頭の上で同じようにお菓子を口にした紫原が、「なんか普通…」と溢したのに同意する。
残念がっているだろう紫原に、黒子は明日辺り何か彼の好きなお菓子でも買ってきてあげようと密かに考えた。


「テーツ、久しぶりに自主練付き合ってやろうか?」
「珍しいですね。どういう風の吹き回しですか?」
「普通に誘っても断られるだろうから、これならって思ってよ」
「…打算的ですね。けど、今日はちょっと都合がつかなくて…すみません」

随分な言い様を気にも留めず名案だとばかりに笑った青峰は、黒子の返答に片目を眇める。
やがて溜め息を一つ溢したかと思うと、華奢な肩を片腕でぐいっと引き寄せ、ふわふわ揺れる空色を大きな手で乱暴に掻き回した。
止めてください、と仏頂面で抵抗してみせた黒子に、最近付き合いが悪い罰だと冗談混じりに青峰が言えば、ふつりと大人しくなる。
素直な反応に苦笑を漏らした青峰は、ぽんと優しくその頭を小突いた。


「黒子、前に言っていた本が手に入ったんだが」
「あ、すみません。あれはもう別の人から借りて読んだんです。言い忘れてました」
「いや、ならいいんだ。他に読みたいものはないのか?」
「今のところ、特には…」
「じゃあ、帰りに本屋にという誘いも無効かな」
「すみません」

お前が申し訳なく感じる必要はないさ、と赤司が笑う。
その瞳が、一瞬黒子とは別の方向に向けられていたが、視線を床に落とした黒子には気付きようがなかった。
スッと伸びた赤司の両手が、軽く拳を握る黒子の両手を掬い取り、解くようにして指を絡める。
胸の辺りで組み合わせたそれは、まるで今から取っ組み合いでも始めるかのようだが、そんなはずもなく。にぎにぎと指に力を加えながら、「んー、んん…?」などと唸る赤司に、特に何も考えていないのだろうと黒子が指摘すれば、にこりと他の者には見せないような柔らかな笑みが返ってきた。


くるくると黒子を取り巻く色が変わる。
けれど、いつまで経ってもそこに加わらない、ただ傍観を決めこむ色が一つ。


「絶対俺の方が黒子っちを好きなのに!」
「なーんでアレを選んだのかな、黒ちんは」
「全くだぜ。テツの相棒は俺なのに」
「解せないな。でもまさか、あいつにあんな一面があったとは…」

黒子ともう一人を除くキセキの面々は、揃って納得がいかないと愚痴を溢す。
皆それぞれに黒子のことを好きで、例え既に相手が決まっていようと関係ないとばかりにあの手この手で迫っているのだが、如何せん、相手が黒子ではなかなかに難しい。
その黒子が選んだ相手は、今日もまた部活が終わると同時にさっさと帰ってしまった。
別々に帰った二人が今頃一緒にいるのだろうことは、ここにいる誰にとて察することが出来た――…。



「み、どりまく…」
「今日はどこを触らせた?お前はガードが緩すぎるのだよ」
「んぅ…んん……」

上半身を覆っていた衣服を脱ぎ捨てた黒子を、緑間が背後から抱きすくめる。
肌の上を無造作に行き来するテーピングの外された繊細な指先に、黒子は身体を震わせた。
わざわざ聞かずとも、同じ空間にいた緑間にはそれがわかっているだろうに、敢えて聞いてくる辺り意地が悪いと思いつつも、もはや習慣と化したそれに黒子は記憶を辿る。

「お、なかと…肩…と、それから…」

黄瀬、紫原、青峰と、順にその箇所を上げていく。
口にするたび、今や剥き出しになっているその部分に緑間の口づけが落とされる。
ちゅっちゅっとこそばゆい音を立てて啄まれ、時に這う舌の温かな感触に、黒子は身を震わせながら控えめな声を漏らした。
そして、赤司が指を絡めた手を取られ、小指から順に口に含まれる。
指の股に舌が這い、ぴちゃぴちゃと響く水音が羞恥を煽る。
自分の指を丹念にしゃぶる眼鏡の奥の伏し目がちな瞳を、黒子は潤んだ瞳で見つめた。

他人の触れた部分を消毒し、自分の色に上書きするかのように、一日の終わりに緑間は黒子に触れる。
それまでは、学校でも部活でも、必要以上の接触はもたないというのに、そのギャップにひどく心乱される。
理由を問えば、不用意に触れてタガが外れてしまっては困るから、ということで、顔を真っ赤にしてそう言った緑間に、黒子までもがつられるように白い肌を朱に染めた。
そもそもお互いにいちゃいちゃラブラブなどという言葉とは縁遠い存在であったので、あからさまに態度に出したりはしない。けれど、それまでは想像もしていなかった緑間の独占欲の強さは、静かでありながらもしっかりとキセキの面々には伝わっている。
黒子にじゃれつくキセキ達を、緑間がどんな目で見ているのか、当の本人は気付いてはいないだろう。
それでも、それくらいでは身を引かず、部活は部活と割り切る二人の間をなんとか引き離そうとするキセキ達には、黒子とて辟易を感じざるを得ないが。
しかし、だからこそこうして独占欲を剥き出しにする緑間がみられるのだと思えば、自分を好いてくれている相手を利用しているようで悪いが、やはり嬉しいと感じてしまう。

「お前は俺のものなのだから、容易に他人に触れさせるな」
「すみません…んっ」

他人の気配を消し去った後、漸く緑間は黒子に口づける。
口内に侵入してくる舌を受け入れながら、これからのことを想像して期待に震える自分が少し恥ずかしくなる。
ズボンの隙間に潜り込む指先の感覚を追いながら、黒子は蕩けるような笑みを浮かべた。

「愛してます、緑間君」
「俺もだ」

普段はあまり直接的な言葉をくれない緑間のその言葉を聞いて、黒子はそっと目を閉じた。



(触れていいのは…)




****

20000hit企画/まるさん

緑黒←キセキで嫉妬深くて独占欲の強い緑間。

大変お待たせ致しました!
せっかく素敵なリクエストをいただいたのに力不足ですみません。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。

ありがとうございました。



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