人間には、驚くべき二面性の一つや二つ、必ずあるものだ。
もしそうでない人間がいるとしたら、寧ろそちらの方が異常なのだと思う。
自分達を除く他の部員が帰ってしまった後の部室で、自分の膝に跨るそれを前に、赤司は先のことを考えた。
いつもはそうそう変化することのない無表情は、今は目の前でくるくると色を変えている。
「赤司くん、聞いてますか?」
「あぁ、聞いているよ」
ムッとしたように眉を寄せ頬を膨らませる姿は何とも愛らしく、つい甘やかすように頭を撫でてやれば、今度は空色の瞳が嬉しそうに細められる。
「ちょっとはあいつ等にもこの可愛らしい笑顔をみせてやればいいのに」
「嫌です。必要ないです。これは赤司くん専用です」
我ながら心にもないことを言ったなという自覚はあった。
けれど、赤司は黒子からのその言葉が聞きたかったのだから仕方ない。
可愛らしい表情でぴたりと身体をくっつけてそんなことを言われて嬉しくないはずがない。
「本当に、テツヤは可愛いな」
頬に手を添えれば、猫がじゃれつくようにそこに頬をすり寄せて、幸せそうに微笑む。
普段の無表情からは想像もつかないその姿は、赤司と二人きりの時のみみせるものだ。
他のキセキの面々からも好かれている黒子のそんな姿を見られるのは自分だけなのだと思えば、優越感も一塩で。
赤司もまた、黒子専用の優しい笑みをその顔に浮かべた。
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