何か面白いことでもないかと街をふらふら歩いていると、前方によく見知った空色が飛び込んできた。
俺は気付かれないようにそっと背後に忍び寄って、男にしては小さめなその体を包み込むようにふわりと覆いかぶさった。
だってさ、いきなり飛びついたりしたらどっかの骨がポキッといっちゃいそうじゃん。
ちっさくてほそっこくて儚げで、なんか無条件に優しくしたくなるんだよなー。

「テーッちゃん」

それならまず声をかけろと思うかもしれないけど、だってこっちのが面白いし。
多少びっくりされるくらいだろうと抱き着いたまま耳元で名前を呼ぶ。
けど、いつまで経っても返事がなくて、不審に思ってちらっと横顔を覗き込む。

大きな空色の瞳を僅かに瞠ったまま、その表情は固まっていた。
いや、無表情なのはいつものことだけど、そうじゃない。
驚きのあまり硬直する。そんな感じ。
まさかあの黒子がそこまで驚くとは思ってなくて、ちょっと面食らってしまう。
悪いことしたかな、と体を離して正面に回り込む。
ばっちりと目が合った途端、それを合図に止まっていた時が動き出したように黒子の体がぴくりと反応し、瞬きを一回。

「あ、高尾君、こんにちは」
「こんちはー…って、びっくりさせちゃったみたいで悪かったな」
「いえ、別にびっくりなんてしてませんし、全然、気のせいですよ」
「いや、してたじゃん。何でそこ否定するわけ?なーんか怪しー」
「な、んでもありません」

いつもの無表情に戻った黒子は、いつも通りの平静を装おうとしてはいるものの、どこか不自然だ。
僅かな綻びを見逃してあげるほど、俺は優しい性格はしていない。
ん?さっきと言ってることが違う?まぁ、いいじゃん。臨機応変ってことで。

「何かあった?俺に触られるの、嫌だった?」
「そうじゃありません」
「じゃあ、何かあったんだ?」

後者でないならば前者だろう。
いつもなら相手の目をきっちり見て話す黒子が顔を俯けてしまったことで、確信する。
嫌な想像がいくつか頭に浮かんで、少しの変化も見逃さないように注意深く黒子を観察する。
やがて、俯いたままの黒子の頬が薄っすら桜色に染まっていることに気付く。

んー?これってもしかして…。

「テッちゃん、ちょっとこっち向いてくんない?」
「嫌です」
「いうこと聞かないとチューしちゃうぞ」
「っ!?」
「はい、いい子いい子」

突然のチュー発言に驚いただけなのか、それとも本当にされたくなかったのか、凄い勢いで黒子が顔を上げる。
真ん丸に見開かれた瞳が俺を見る。
うん。どっちかなんて、その顔見ればわかるんだけどね。
だって、男にしては白過ぎる肌が明らかに熱を持ってるから。

「いい子なテッちゃんには、ご褒美のチューしてあげる」

人目を憚って触れるだけのキス。
もしかしたらその場にいた数人は気付いたかもしれないけど、別に他人なんてどうでもいい。
黒子は真っ赤になって口元を抑えている。
何それ可愛過ぎ。
嘘つき、なんて詰られたって、痛くも痒くもないし、可愛すぎるテッちゃんが悪いんだし。
なんてのは、単なる言いがかりかな。

「さて、挙動がおかしい理由を聞かせてもらおうか」
「……」
「観念しなよ」

どうせ俺からは逃げられないんだから。
とか言ったら怯えちゃうかな。
でも、言わんとしてることは自ずと伝わったみたいだ。

「今、ここでですか?」
「そう。今、ここで。あと笑顔のオプション付きだともっと嬉しいけど」
「我がままですね」
「知ってるっしょ?」

だって、あれだけ自分の気持ちを君に伝えてたんだから。
やっと君が、その答えをくれるっていうんだから、舞い上がらない方がどうかしてる。

「高尾君」
「はい」
「好きです」
「俺も、大好き」

お願いした通り、花が綻んだような笑顔で待ち望んでいた言葉をくれた黒子を堪らず抱きしめる。
力加減を忘れて思い切り抱き着いたから、「痛いです」と腕の中から抗議の声が上がった。
そうだね。恋人には優しくしないとね。

「大切にするからね、テッちゃん」
「幸せになりましょう、高尾君」

さっきまであんなにキョドッてたくせに、すっかり元の男前な自分を取り戻したらしい。
白昼堂々男同士抱き合っている姿は周りにどう映るか知らないが、見たけりゃ勝手にすればいい。そんでもって、この場この時の証人にでもなってくれ。

俺達がめでたく恋人同士になった記念に、俺の想いが成就した記念に、その証を刻んで。




(夜空を彩る星にしよう)




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