「成る程」
暫しの沈黙の後、黄瀬の答えを聞いた少年は、神妙な顔で頷いた。
何が成る程なのか、全くもって理解しかねる。
そんな中、地面に降り立った少年は一度空を仰いでから黄瀬に視線を戻すと、「さて、これからどうしましょうか」とこれまた答えに困る言葉を吐き出した。
返事に窮する黄瀬に、少年はふと何かに思い至ったように再び口を開く。
「ちなみに、君は結局どうするんですか?」
「何が…」
「飛び降りるんですか、降りないんですか?」
そう問われて漸く、目の前の事が衝撃的すぎて一瞬忘れてしまっていた本来の目的を思い出す。
しかし、そのせいかどうかは定かではないが―少年に声を掛けられ意識が逸れたのも原因の一つではあるかもしれないが―気持ちはどうにも揺らぎを見せ始めていた。
生と死の文字が頭の中で点滅を繰り返し、なかなか返事ができない。
「…どうしたらいいと思うっスか?」
結局、口をついたのはそんな言葉。
別に何かを期待したわけではない。ただ、何度もそうして質問に質問で返してきた少年の真似をしてみた。それだけのことだ。
またはぐらかされるのだろうと、期待などしていないけれどと嘯く片隅に、何でもいいから答えが欲しいという僅かな望みが混じっていたのは、きっと気のせいだ。
「それは、僕にはわかりません」
やっぱりだ。
わかっていたことなのに、どこか落胆している自分がいる。
しかし、少年は「けれど…」とまだ言葉を続けた。
「あまり悲観的にならなくていいと思います。人生、誰でもそういうことがあるでしょうし。そう焦って答えを出さなくてもいいと、僕は思います」
真っ直ぐな瞳に、射抜かれたような気がした。
それでも、それを素直に受け入れられなくて、思わず反発する言葉が口から零れる。
「あんたなんかに、何がわかるんスか」
「さぁ…。さっきも言ったように、僕には何もわかりません」
そう言った少年は、出会ってから初めて、その顔に笑みを浮かべた。
このタイミングで笑う意味がわからなかった。それは、言葉とは裏腹に、含みのある笑みだったように思えた。
「あ…」
「おいおい、何やってんだよ、お前は」
笑みの意味が知りたくて、何か言わなければと口を開いた矢先、別の声に遮られる。
どこからともなく現れた、少年と同じ黒いスーツを着崩して身に纏っている色黒の青年が、幾分も低い位置にある少年の肩に腕を回すようにして立っていた。
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