部屋の中は暖房がきいていて、決して寒いというわけではない。
けれど、三角座りして本を読む僕を後ろから抱きかかえるようにして座る黄瀬君は、その体をぴたりとすり寄せ、更に二人分の体を覆うように一枚の毛布を巻きつける。

ぱらり。ぱらり。
静かな室内には、僕が立てる紙を捲る音が響き続けている。
いつもは騒がしい黄瀬君が大人しくて、まったりとした空気が部屋を包む。
時折身じろぎ、頬をすり寄せ、腹に回る手に力が込められたりはするものの、邪魔になるようなことはしない。
全身で甘えるような仕草は心地良くて、それを止めさせようとは思わない。

ぱたん。
本を閉じて、毛布の隙間を潜らせる。
それまでより体重をかけてくっついてきた黄瀬君はそのままに、僕はカーテンに遮られることのない窓に視線を投げた。

窓枠に切り取られた世界は濃厚な夜色に染まっていて、淡く色づく月の周りで輝く星々がとても綺麗だ。
いい夜だな、とほんわりした気持ちに浸っていると、「いい夜っスね」とまったく同じことを黄瀬君が口にして、思わず笑みがこぼれる。
いつの間にか、黄瀬君も僕と同じものを見ていたらしい。
それを伝えれば、想い合っているのだから当然だと、どこか誇らしげに彼も笑った。

「もう、本はいいんスか?」
「はい。区切りのいいところまでいきましたから」
「そうっスか」
「えぇ」

自分からも彼に体重を預ければ、肩に顎がのせられる。
さらりと揺れた彼の髪は、太陽の下のそれではなく、夜を灯す月のような柔らかさがあって、つい触れたくなった。

「放っておいてすみませんでした」
「黒子っちが本読んでるのを見てるのも好きだから」

それに、その間ずっとくっ付いていられて幸せだと、優しく微笑む黄瀬君の髪を堪らず撫でる。
彼は嬉しそうに目を細めて、僕も彼の気持ちが嬉しくて笑んだ。

静かで優しい夜だった。
まったりと過ぎる時間は決して退屈なものではなく、幸福感に満ち溢れていた。

「なんだか、世界に二人だけになったみたいっスね」

夢に浸るように黄瀬君が溢した言葉に、同意して頬を寄せる。
夜という世界に切り取られた空間は、静寂が降り積もるような穏やかさで、正にそんな感じだった。

「こうしてるだけで幸せになれるって、凄いことっスよね」
「そうですね」

ただ互いの体温を感じているだけ。
言葉もなく、何をするでもなく。
そこに二人がいれば、それで幸せなのだと。

二人を包む夜色はまだ明け色に染まる気配はない。



(このまま覚めなくてもいいと思えるような幸せな時間)




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