「君は決して僕を好きにはならないから」

どうして自分の傍にいるのかという問いに、彼はそう答えた。

「彼らの気持ちに応えられもしないのに、ただただ愛を貰うのはしんどくて、息苦しいんです」

言葉の途中から、ふいに呼吸の乱れ始めた黒子に、らしくもなく動揺する。

「おい、黒子」
「…っ……はっ、ぁ…」
「しっかりしろ!」

どうしていいのかわからず、とりあえず大きく上下する小さな背を擦る。
息を整えようと必死で呼吸を繰り返す黒子がさすがに心配で、誰か人を呼ぼうと立ち上がろうとすると、青白い手に服を引かれる。
誰も呼ぶなと、そう言っているように。
薄っすら涙を浮かべ自分を見上げる黒子に、仕方なく再び腰を下ろした。

「すみません」
「もう大丈夫なのか?」
「はい」

漸くそれが治まったらしい黒子が、未だ潤む瞳で真っ直ぐにこちらを見る。

そうして、

『君だけは僕のこと、好きにならないでくださいね』

そう、祈るように、縋るように溢した。

それは保証できかねる。しかし、ここでそう言ってしまうことが許されないこともわかっている。

「当然なのだよ」

それが、俺の出した答えだった。
俺の愛は、黒子を愛さないことにあるのだと。
矛盾の生じるそれを偽りにしないため、俺は精々人事を尽くそう。

『君の傍では呼吸が出来る』

そんなことを言われてしまえば、隣にある温もりを抱き寄せたくなる衝動に抗うのとて困難だ。

だが、俺は決めたのだ。

拳を握りしめ、顔を逸らすことでその衝動を押し殺す。


これからも俺が、安息の地であれるならば。



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