*保育士高尾×園児黒子




「全員見つかったかー?」
「はーい!」
「っと、黒子はいるか?」
「まだみたいだね」

ガヤガヤと賑わう園児たちを見回しながら高尾が即答する。
今日は火神と高尾の受け持つクラス合同のかくれんぼ大会が開催されていた。
そして数十分後。子供のかくれんぼとは存外単純なもので、ほぼ全員が発見され、そろそろお開きになろうかというところで、いつものことながら存在を忘れられがちな黒子のことを常から気にかけている火神が先の言葉を述べたのだ。

「じゃあ、ちょっと俺探してくるわ」
「あぁ、頼む」

ひらり手を振って、高尾は教室を出る。
最後に黒子を見つけるのは、もはや高尾の役目になっているため慣れたものだ。
黒子もわざと見つかりやすいところに隠れでもすればいいものを、そこは負けず嫌いな黒子のこと。本気で隠れるものだから、誰にも見つけられないのだ。
そういうところは子供というかなんというか…と、本人に言えば機嫌を損ねられること間違いないことを考えながら、高尾は室内履きから外履きに履き替えた。

鬼が探しに来たが気付かれなかったという可能性もあるため、普通ならばまた一から探さなければならないところであるが、高尾にはなんとなく黒子の居そうな場所がわかっていた。
目が良いだけでなく勘も鋭いというのは周りからすれば厄介なことこの上ないわけだが、黒子に対しては寧ろ有り難がられている。かと思えば、理不尽な妬みの感情を向けられることもしばしばで、けれどそれを心地良くすら思っているのだから同情の余地はない。

「おーい、黒子ー」

いきなり発見してびっくりさせないようにという気遣いから、一応自分が来たことを知らせるように声を出す。
勿論、返事などあるはずもない。

「…みーっけ!」

そう宣言してそこを覗き込めば、草葉の陰に身を潜めていた予想通りの水色がこちらを向いた。
そうして、いつもの無表情を心持ち緩めてふわりと笑う。
この瞬間が堪らないのだと、高尾は小さなその体を軽やかに抱き上げた。
体のあちこちに付着している葉っぱを払い落としてやりながら、辺りを見回す。

「それにしても今回は随分なところに居たなー。さすがに危ねーだろ」

黒子の隠れていた草葉は、園内と外界を隔てる金網のすぐ近くで、人気もそれほどあるわけではない。
おまけにこうして草まみれにまでなっている。
子どもは汚れるのが仕事だが、普段からおとなしくどこか達観したような黒子にはそんなイメージはなかったので少し意外ではある。

「別にあぶなくないです」
「変な奴に連れてかれたり、俺みたいなのに襲われちゃうかもしれないぜ?」
「大丈夫です。おそうのは僕の方ですから」
「へ?」

自分の耳を疑ったところで、ほっぺにチュッと温かく柔らかな感触が伝わる。
目を丸くした高尾に、黒子は満足そうににこりと微笑んだ。
予想もしていなかった突然の奇襲に、へなへなとその場にへたり込む。それでもきちんと黒子を地面に下ろしてから、頭を抱えるようにして蹲った。
こんな真っ赤になっているだろう顔を黒子には見せられない。

「僕を見つけるのは、ぜったいに高尾せんせーですから」

だからこうして二人きりになれる場所に誘い出し、待ち構えていたのだと黒子は言った。
それを園児が言っているのだと思えば末恐ろしいことこの上ない。
好かれているのはわかっていたが、まさかここまでだとは思ってもみなかった。
更にこんな風に積極的な態度をとられると、柄にもなく戸惑ってしまう反面、嬉しい誤算に顔がにやけるのを止められない。

「高尾せんせー?」

いつまでも顔を上げない高尾を不審に思った黒子が近寄ってくる。
覗き込むように近付いた無防備な体を抱き寄せ、そのすべすべでマシュマロのような柔らかな頬に自分がされたようにキスをお見舞いする。

「お返し」

ついでにウィンクすれば、真っ白な肌が次第に赤く染まっていく。
自分からするのはよくても、人からされるのは苦手。それは、互いに言えることだろう。
顔を赤くした黒子は唯でさえ可愛いというのに、そのままはにかんだように笑まれては堪り兼ねるというものだ。
まるで天使のようではないか。いや、天使か。
どこかに閉じ込めて誰の目にも触れさせたくないような、なんていうのは園児相手ではさすがに洒落にならない。
とりあえず手近な自分の腕の中にすっぽりと閉じ込めて、

「早く大きくなれよ」

なんてある意味定番の台詞を吐けば、

「高尾せんせーより大きくなってみせます」

なんて、なんとも子供らしい可愛げのない台詞が返ってくる。
期待してるぜ、と返しながらも、恐らくそうはならないことはなんとなくわかっていた。

そうして、漸く火神一人に二クラス分の子供達を任せてきたことを思い出し、名残惜しいながらも黒子を抱え直して教室に戻る。
案の定、数人の園児を体に纏わりつかせ、疲れ果てた様子の火神に言葉ばかりの謝罪を述べて、黒子を解放しようとしたところで、すやすやと穏やかな寝息に気付く。

「ありゃりゃ…」

自分の腕の中で安心しきった様子で眠ってしまった黒子に、複雑な感情を覚える。
好きな相手の腕の中でそう簡単に寝られても、という思いと、自分を信頼し全てを預けてくれているのだ、という思いが混ざり合う。
それも全て子供だから仕方のないことではあるのだが。
どちらにせよ、その寝顔も大変可愛らしく天使なことに変わりはないのでとりあえずはよしとしよう。

それから、かくれんぼの後の数分は、高尾と黒子の秘密の時間となったのだった。



(唇へのキスはまだおあずけ)



高黒はお互い男前なので、やられたらやり返す的なことを水面下で狙っている感じがいいと思います。
その後は、成長するにつれ、茶目っ気はたっぷりだけどやはり大人な高尾に黒子がもやもやしていたり、性格は破綻しているが高スペックな男達からモテモテな黒子に高尾がやきもきしていたりすればいいと思います。
機会があれば書いてみたいものですね。



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