「…何見てるの?」
「んー」
「何考えてるワケ?」
「月島の髪って、甘そうだなーと思って」
「…それを言うなら日向の髪だって温かそうだよ」

机を挟んだ向かい合わせで勉強を教えてもらっていた日向は、半ば現実逃避気味にそんなことを考えた。
名前から連想できる柔らかな月の光みたいな髪の色。
他に思い浮かぶものは何かと、短く切り揃えられたそれを見つめながら、勉強以外のこととなるとよく働く頭で考えた。
例えば、淡い蜂蜜とか。例えば、ミルクセーキとか。
浮かぶものは甘いものばかりで、その内月島の髪が甘そうだという結論に至った。
月島自体は決して甘くなんてなくて、棘とげとほろ苦いのに。

甘そうだと言ったことの意味をきちんと汲み取ったのかは定かではないけれど、返ってきた言葉の意味はたぶん、日向の髪は太陽みたいで温かそう、ということなんだろう。
勿論、月島の髪が本当に甘くないように、日向の髪だってそれ単体では温かくなんてない。
けれど、そんな風に端から馬鹿にしないで相手をしてくれる辺りは、優しさだと思う。
非常にわかり辛いけれど、ほんのちょっと甘さがあるのは確かで。
日向は、月島のそういうところを見つけては、与えられた甘さを宝石のように大事に心に仕舞う。
キラキラと輝いて、積もって、日向を幸せにしてくれる。

だから、やっぱりなんだかんだで月島は甘いんだと思う。と、そんなことを考えていたら、不本意な気を感じ取ったのか、向けられている月島の眼鏡の奥の瞳が眇められる。
鋭いというか自己否定的というか、日向はしょっちゅうそんな月島にドキリとさせられるのだ。

「また変なこと考えてたデショ」
「べっつにー。よーし、勉強するぞー」
「ったく…」

誤魔化すためにあえて勉強を引き合いに出せば、呆れたような溜め息が頭上から溢された。
けれどそれ以上の追及はなくて、それがまた甘いなと感じられて、今度は悟られないようにと日向はにやけそうになるのを懸命に堪えた。
それが成功したのかどうかは、既に教科書に視線を落としてしまっている月島の様子からはわからない。
日向でもわかるようにと説明の仕方を考えてくれているのだろうその俯きがちな顔を見ていたら、なんだか胸に甘くて温かい気持ちが広がった。

本当のことを言ったら、この捻くれ者は照れて優しくしてくれなくなる気がするから、俺はあいつが素直になれるまで絶対に言ってやらない。



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