胸に燻るもやもやは依然解消されないまま、むしろ降り積もる一方で。本人に自覚はなけれども、常から険しいその表情は更に凄みを増し、部活のメンバーのみならず、周りの人々にも不要な恐怖を与えていた。
多少慣れているとはいえ恐ろしいものは恐ろしく、部員たちがさりげなく気を遣っていることにも、影山はまったく気付いていなかった。
影山の様子がおかしいことの原因は、一部の人間の察するところであったが、それをどう本人に切り出したものか考えあぐねているのだった――


「影山、何かあったんか?」

口火を切ったのは、面倒見がよく、ポジションも同じ先輩である菅原だった。
いきなり話を振られ、当然自覚のない影山は、どうしてそんなことを聞くのだろうかと首を傾げた。

「お前、最近顔怖すぎ。周りも心配してっからさ」
「え…マジですか」
「マジマジ」

指摘され、影山は確認するようにぺたりと自分の顔に手をやった。見えていなければわかりようもないが、確かに眉間の皺がいつもより濃いような気はした。
とりあえず気を遣わせてしまっていたことを謝ると、仲間として当然だと笑われ、それで何があったのかと改めて問われて、自身もわかっていないながらに原因を探る。

「あの、日向のヤツ、最近何かおかしくないですか?」
「日向?いんや、いつも通りだと思うぞ。っても、お前がおかし過ぎて気付かなかったのかもしれないけど」
「そ、ですか…」

面と向かっておかしかったと言われれば落ち込むが、菅原が自分のせいでその他の異変に気付かないわけはないので、やはり変なのは自分の方なのだろう。
改めて原因を考えようと頭を捻れば、「だから、顔」と再度指摘を受ける。

「日向と何かあった?」
「そういうわけじゃ…ない、と思います」
「…日向のこと、気になるんだろ」
「それは、まぁ…あいつがおかしいとバレーに支障が出ますから」
「……」

日向の奴はすぐに感情がプレーに表れるので気をつけていなければと言った影山をジッと見つめて、菅原は溜め息を吐き出した。
また何かしてしまっただろうかと、影山は不安に駆られて菅原を見る。

「きっとこういうのって、自分で気付いた方がいいと思うんだよな」
「は…」
「人がどうこう言うことじゃないってか、言っていいことじゃない…みたいな」
「……」
「とりあえずさ、バレーを一旦抜きにして、真っ直ぐ日向のこと見てみればいいのかも」
「はぁ……?」

独り言のようにぶつぶつと呟いて、結論が出たとばかりに言った菅原に、影山は頭に複数のクエスチョンマークを躍らせる。
バレーを抜きにして日向を見るという意味がわからなかったからだ。
けれど、それを察してか、菅原が付け足すように言った。

「自分が日向をどんな風に見てるのかって考えればいいんだ。因みに、俺は日向のこと可愛いと思うし、好きだよ」
「…っ」

にっこりと悪戯っ子のような顔で笑って、あとは自分で考えろとばかりに、菅原は手を振って去って行った。

日向が仲間たちから可愛がられ、好かれていることなどとっくにわかっていたことなのに、改めて口にされると何とも言えない気分だった。
及川と笑い合っていた姿を目撃した時と似たようなもやもやが胸の中に広がって、影山は右手で胸を押さえながら考え込むように床に視線を落とした。



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