「臨也さん!」
「何?」

咄嗟に臨也の服の裾を掴み、縋るように見上げた帝人に返されたのは、心が一瞬で凍てついてしまいそうなほどに何の感情も宿らない冷めた眼差し。

「あ、の…」
「用がないなら、さっさと消えてくれない?目障りだから」
「すみません…」

意図的に傷付けるためではなく、ただ本当にそう思ったから言っただけだとわかる言葉が、鋭いナイフのように帝人の心に突き刺さる。
返す言葉を持たなかった帝人は、微かに震える手から掴んでいた服を解放する。
重い溜め息が臨也の口から零れて、びくりとその身を固くした。

「帝人くん、改めて言うまでもないと思うけど、俺は人間を愛してるから君のことも愛してる。けど、君を特別に愛してるわけじゃない」
「………」

回復する間も与えずじくじくと痛む心を再び貫かれ、帝人は堪らず心臓の辺りを服の上からギュッと押さえる。
言われずとも、勿論そんなことはわかっているのだ。けれど、諦めることはできなかった。
いくら突き放されても、傷付けられても、諦めなければいつの日か自分だけを見てくれる瞬間が訪れるかもしれないと、それが例えほんの一瞬だけでも構わないからと、無謀な望みを抱くことを止められないでいた。

「どうすれば、僕を見てくれますか?」

後じさりそうになる足をなんとか押し止めて、思い切って尋ねる。
臨也は一度開きかけた口を閉じて、恐らくは突き放すための言葉を呑み込むと、顎に手を当て考えるポーズをとった。
そして、即拒否されなかったことで僅かに期待に揺れる帝人に、先ほどまでの氷のような瞳とは打って変わって妖しい光を灯した瞳を向ける。

「そうだね…俺に愛されたいなら、シズちゃんを誘惑してみるとかどうかな?」
「え?」

予想していなかったここにはいない人物の名の登場と、“誘惑”という単語に耳を疑う。
言葉の意味を理解しかねている帝人に対して、臨也はすっと目を細めてみせた。

「聞こえなかった?シズちゃんをオトしてみせてよ」
「ど、して…静雄さんは関係な…」
「なくはないと思うなぁ」

臨也の瞳に愉しげな色が浮かぶ。
何かを企んでいる。それがわかったところで、自分には出された条件を飲むしか道はない。
一人の愛を得るために、本当にそうなるのかもわからない微かな希望のために、無関係な、しかもあんなに優しい人を利用するなんて。
そう思いつつも、答えは既に心にあったが、言葉にするのに時間がかかってしまう。

「やるの?やらないの?もしノーならもう用はないんだけど」
「や……」

咄嗟に口は開いたもののそれ以上言葉を発せないでいる帝人に、臨也は興味が失せたように背を向けた。
ここで去られてしまえば、今後この人が自分に振り向いてくれることはきっと二度とないだろう。
どくどくと心臓が煩いほどに加速して、握り締めた拳は緊張と罪悪感に震えていた。

「待って、待ってください!…やります、から…だからっ!」

うっそり振り返った臨也は、帝人の言葉に一瞬驚きの表情を浮かべて、次の瞬間には非常に愉快そうに唇を歪めた。

「愉しみにしてるよ」





この後、帝人は言われた通りに静雄に迫る。
静雄は帝人が臨也を好きなことに薄々気付いてて、臨也のために(命令とは思わず自分で考えて)自分に迫ってると思っている。
けど、帝人のことが好きだから突き放せない。
みたいな話にしたかったけど力尽きました。
最終的には自分で言っておいて静雄に迫る帝人にイラついた臨也が何かと葛藤するか、帝人が静雄にほだされて臨也より静雄を取るか…どうでしょう。




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