ふいに雨は好きかと聞かれて、家から出ない俺には関係のないものだからなんとも、と答える。
こいつは嫌いそうだな、と思っていると、「僕は好きだけど」と真逆の言葉がカノの口から溢された。
怪訝な顔で隣に座る男を見れば、「だってさ…」と思いの外仄暗い笑みが向けられてドキリとする。

「雨は愚か者が好むものでしょう?」

カノの言葉に、俺はぱちくりと目を瞬かせる。

「全てを洗い流してくれるから好き、なんてのはそうして欲しい罪のある人間。濡れ鼠になって安心するのは心に疚しさのある人間。だから、僕も雨は好き」

あまりにも捻くれた考え方には呆れるしかない。
そう言ったカノの表情は笑みを形作ってはいたけれど痛々しいくらいで、俺は無言でその頭を抱き寄せた。

「どうしたの、シンタロー君」

不思議そうにしながらも背に回される腕の感触に、俺はやっぱり何も答えなかった。

それって、雨が嫌いってことだろ、とは何故か言えなかった。




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