「え…ちょ、待って!それじゃまるで黒子っちが俺のこと好きみたいじゃないっスか!」
「……」

動揺のあまりありえないことを口走ってしまった俺に対して、黒子っちは呆れ果てたように重い溜め息を吐き出した。
浅はかな願望を露見させてしまった俺に嫌気がさしたのかと、次いで眇められた瞳に見つめられ、心と体が萎縮する。

「ごめん!そんなわけないっスよね!!変なこと言ってホント申し訳ないっス。今のは忘れ…」

努めて明るくそう告げた矢先、ネクタイをぐいっと引かれて前のめりになる。
言葉の途中で不格好にも半開きだった唇に、噛み付くような熱が触れる。
何が起こったのかと思考が停止している間にネクタイが解放され、急激に押し寄せてきた許容範囲を越えた事態に混乱する頭でもって逃げるように勢いよく上体を反らせる。
黒子っちは相変わらず呆れた様子でそんな俺をみていた。
キスされた。それは理解したものの、あまりにも黒子っちの態度が普段通りなため、あれは本当にキスだったのかと疑問を抱かずにはいられない。

「な、黒子っち…今……」
「キスしましたが何か」

黒子っちの口から"キス"という単語が飛び出しただけで胸が高鳴る。
やはりキスだったのだ。黒子っちとキスをしてしまった…。
カーッと一気に頭に血が上って、顔が沸騰したように熱くなる。

「な、何で…」
「君が恐ろしいまでに鈍感だからです。いつまで待っていても埒があかないとわかったので、強硬手段に出ることにしました」

本当は気付いて欲しかったんですけど、と続けられた言葉は、既にまともに稼働しない頭では理解不能だった。

「それって…」

どういう意味かと問い返せば、また溜め息が溢れ、じっとり睨まれる。

ここまでしてわかりませんか、と詰め寄られれば、さっきのことを思い出して思わず後退りしてしまう。すると、自分を見据える黒子っちの瞳がギラッと光った気がした。
怒ってらっしゃる…。
普段の黒子っちからは想像もつかない怒りのオーラを感じとり、必死に頭を働かせる。

つまり、俺が鈍感なせいで黒子っちは怒っているのだ。
黒子っちが訴えたい何かに俺が気付かないから…。
それと、さっきのキス。
全てを繋ぎ合わせて導き出した答えは、さっき自分が放った言葉を思い起こさせた。

黒子っちは俺のことが…。

再び顔に熱が集まるのを感じ、まだそうと決まったわけではないのだと過度な期待をしないよう自分に言い聞かせる。

ごくり、と一度唾を飲み込んで、恐る恐る口を開く。

「黒子っちは、俺のこと好きなんスか?」

言ってしまった。
無言で見つめる黒子っちの表情からは何も読み取ることは出来ず、心臓はばくばくと激しく脈を打つ。
ハァっと三度吐かれた溜め息に、びくりと肩がすくむ。
やはり自分は間違った答えをしてしまったのだろうか。

「やっとわかったんですか。これで気付かなかったらもう押し倒すしかないと思いましたよ」
「黒子っち…」

答えは肯定された。
つまり黒子っちは俺のことが好き…ってことで。けれど簡単にはその答えを受け入れられず、明確な言葉を求めるように黒子っちを見つめる。

するとそれが伝わったのか、ここまでくれば仕方ないといった風に黒子っちが口を開く。

「僕は黄瀬君のことが好きです」

そしてにこりと微笑まれれば、堪らない。
沸き上がる喜びに任せて目の前の小さな体を抱き締めた。

「俺も、ずっと、ずっと黒子っちが好きだった!」

想いの丈をぶつけ、ぎゅうぎゅうと腕に力を込める。
知ってますよ、と抱き締め返され、嬉し過ぎて涙が滲んだ。

「何でもっと早く言ってくれなかったんスか」

問えば、「自分で気付いて欲しかったんです。ヒントは沢山渡したはずですよ」と返される。

思い返せば、確かにそんなこともあったかもしれない。けれど黒子っちも自分を好きなんじゃないかと思う度、それは黒子っちも自分を好きになってくれたらいいなと思っている自分の都合のいい解釈ではないかと否定してきた。

もっと早く、自分がそれを肯定できていれば…。
けれど今更それを言ってもどうにもなりはしないし、結果的に両想いになれたのだ。
今はただ、この喜びに浸っていたくて、過去のことをあれこれ考えるのは止めにした。

だって、自分を確かに好きだと言ってくれる黒子っちが目の前にいるんだから。




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