隣にターコイズ

 どこに惹かれたのか聞かれたらそれこそ困るというものだった。同級生が言う、彼女のここが好き、彼氏のここが好きというのがよく分からなかった。その人がその人であるならそれだけで好きだから。
 早まったかもしれない。数日経って冷静になり思ったのはそれだった。本当はもっとやりようがあったと思う。出会ってから数ヶ月しかたっていないけれど、あと少し内側の柔いところに触れることを多少でも許してもらえるくらいになってからの方がよかった。年下の甘えるという特権を使うべきだったのだろうけれど、あいにくそんなことができるほど器用でもなかった。
 うまくいかない。深くため息をつくと目敏く後ろからぬっと顔を出す影がひとつ。
「少年、青春してるねぇ」
「少年って……もう高校生ですけど」
「いやいや分かってないな京介、高校生が人生の中で一番青春なんだよ」
「まぁ……そうでしょうけど」
「今お前が悩んでること当ててあげようか?」
「……いや、いいです。どのみち迅さんには視えてるんすよね」
「んー? 何が?」
「俺が何に悩んでるのか、とか。……これが最後どうなるのか、とか」
「ンー……マァ、そう、かも?」
「かも?」
 迅さんが手に持っていたのは意外なことにぼんち揚の袋ではなくアイスキャンディーだった。まぁ食いなよ、と差し出された一本を受け取って安っぽい封を開ける。冷えたオレンジの味が舌を冷やした。夏日が眩しい。温い風が汗の伝う首筋を撫でる。
「んー、とりあえずそれは置いておいてさぁ。お前の話聞かせてよ」
「何もないすけど」
「いやいや、男子高校生たるもの恋バナの一つや二つ話してこそでしょ。経験豊富な迅さんがアドバイスしてあげよう」
「面白がってません?」
「当たり前だろ」
「最悪だ……」
「悪いようにはしないからさぁ」
 しゃく、と噛み切ったアイスキャンディーを舌で潰して飲み込む。少し柔くなったそれは喉を冷やして胃に落ちた。
「……バイト先の先輩です」
「うん」
「俺の教育担当で、今大学生のひとで」
「おー、いいねぇ」
「4つ上なんですけど」
「……騙されてない?」
「あの人はそんな器用な人じゃないです」
 むす、と露骨に態度に出して不貞腐れて見せれば迅さんはあははと笑いながら冗談だよ、と俺の肩を叩いた。アイスはもう食べ切ったのか、棒だけになったそれを噛んだり指で摘んだりしてぷらぷらと揺らしている。
「京介が好きになるんだから、そういう子じゃないのは分かるよ」
「それはそれでなんか嫌です」
「エッなんで!?」
「なんとなく……?」
「嫉妬?」
「違います」
「その人のいいところ、俺だけが知ってればいいと思ってたりしない?」
「それは、……それ、は」
「はー、いいねぇ。青春青春」
「迅さん!!」
「冗談だって!!」
「……止めないんすか」
「なにが?」
「わかんないですけど。年上すぎないかとか……そういうので」
 ちょっと大袈裟に目を見開いた年上は、そのまま片手に持った木の棒を半分に折り曲げて言った。
「お前は止めてほしい?」
「そういうわけじゃないです」
「だろうなぁ」
 こぼす程度の苦笑い。二つ折りを指で弄んで、それから口を開いた。
「止めてもお前、諦めないだろ」
 その通りだった。たぶん、何を言われたって諦めないだろう。たとえフラれると言われたとしても諦めはつかなかった。
 理由は知らない。この人がいい。この人でなくては嫌だった。たぶん、人生で唯一の我儘だ。
「お前には視えてる未来、教えてほしいって言われても教えてやんないよ」
 意地の悪く聞こえる言葉は裏腹に優しいものだった。多分、俺の感情まで察しているのだろう。それがむず痒くて少しだけ肩をすくめた。
「最悪が視えてても覆しますよ」
「太刀川さんみたいなこと言うね、お前」
「あの人の下にいたんでそりゃ似ますよ」
「それもそうか」




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