君はベイビーブルー

 のらりくらりというわけでもないが、決死の覚悟で持ち帰りの検討を提案したのが4日前。制服に袖を通した私はバイト先のロッカーの前で頭を抱えていた。壁に張り出されたシフト表は何度睨んでも一向に変わる気配がない。深く深くため息をついた。ガチャ、と後ろのドアが音を立てて、盛大に肩が跳ね上がる。おずおずと振り返った。
「おはようございます」
「お、はよー、っ!?」
 鈍く光る学ランの金ボタンが眩しい。反射で挨拶したけれど声は裏返っていなかっただろうか。
 烏丸くんは自分のロッカーを開けて淡々と準備を始めたものだから、拍子抜けしてぱちくり瞬きをした。ぽけっとした顔で見てくる私を怪訝に思ったのか、すこしだけ眉をひそめて烏丸くんが私の方を見る。
「なんかついてます?」
「あ、え、ううん! なんでもない」
「そっすか」
「うん……」
「……眞白先輩、なんか今日体調悪かったりします?」
「ぜ、全然!? そんなことないよ!? 元気元気」
「ならいいんですけど」
 バタン、用意が済んだ烏丸くんが自分のロッカーの戸を閉めて鍵をかける。私も慌てて髪を手櫛で整えた。控室の時計は出勤時間5分前を指している。
「あ、先輩」
「はいっ!?」
 部屋を出ようとする私を後輩が呼び止める。バイト用の靴の音が今だけ異様に大きかった。
「タイ曲がってます」
「ひぇ、」
 その日のバイトは、烏丸くんって睫毛長いな、以外よくわからなかった。

◇◇◇

「結局返事したのか」
「してない」
「マジ?」
「出来ないぃ……」
「オッケーしとけって。結果的に18歳超えれば問題ないだろ」
「大いにあるでしょうが」
 週替わりメニューの豆乳けんちん蕎麦が気になるからと学食に誘ったのは私で、寝た子を起こしたのは太刀川だった。訊かれたくなかった気持ちもあるけれど、せっついてくれることを期待していなかったといえばそれは嘘になる。太刀川は力もちうどんを食べていた。なんで私たちはいつも麺類しか食べないんだろう。
「断るなら断るで別にいいんじゃねぇの? お前は何にそんな悩んでんわけ」
 言葉に詰まった。
「相手がどう食い下がってこようが『付き合わない』で張ればそれ以上何にも言えねーだろ」
「うん……それは、そうなんだけど」
「わざわざ付き合わない理由を探すなよ」
 そんなことないと言えたらどれだけ救われただろう。心の柔いところをちくりと刺す一言に、私は視線を泳がせた。太刀川はみょーん、とお餅を伸ばしてから咀嚼し切った後、ちょっと偉そうな顔で言った。

「その時点でお前の負けだよ」




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