横断歩道の白い部分だけ歩くような、歩道のブロックの上を落ちないように渡るような、子供じみたことを躊躇いなくできてしまう隣のこの人に今告白したらどうなるんやろか。一段高い場所に乗っているのに自分より少しだけ目線の低い隣にいる女へ思いを馳せて、水上は制服のポケットに手を突っ込んだまま小さく喉で唸った。
 鈍感な女。人の気持ちも知らんで、ケラケラ笑って、それで、それで。勝手に振り回されているのはこちらなのにどうしてか腹が立つ。
「いいな、制服。水上くんの高校は女の子セーラー服なんだっけ」
「そうすね」
「私は中高ずっとブレザーだったから憧れちゃうなぁ、高校生だったら一緒に学校終わってからボーダー向かうとかできたね」
「今もしてるやないですか」
「今日はたまたまじゃん、教室まで行ってかえろーって声かけて……教科書借りたりとか、ジャージ借りたりとか」
「ジャージはあかんやろ」
「そ? たまに借りてたよ、同じ部活の子に上貸して!とか。寒い日に」
「それは……おん……」
「いいなぁ、いいなぁ」
 自分の靴のまあるいつま先に目を落として、押し出すように息を吐いて。
「……20歳いうても、なまえさんかわええですし、高校生とそこまで変わらんのとちゃいますか」
 ぱちぱち、とゆっくり瞬きする様子はいつか後輩が隊室で見ていた猫の動画を思い出させた。それが同じ意味を持っていたとするならば、果たして俺はどれだけ救われたのだろうか。祈るような気持ちで吐いた言葉に縋りながら、水上は柄にもなく足元の小石をあらぬ方向に蹴り飛ばした。
「水上くんは、優しいねぇ」
 緩く眦を下げて、ふにゃりと困ったように笑う女にはもう何も言えなかった。この煮え切らないやりとりだって許してしまえるのだから、もうどうしようもない。そうすかね、とも、そうやろ、とも返せず、ふいと視線を泳がせる。戦争でも薔薇色でもなんでもない。こんなのバグで、脳の病だ。そうじゃなかったらこんな不毛な会話に期待を抱いたりなんてするはずがないのだ。

◎BGM 曖昧劣情Lover


諂い上手の愁い下手



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