人のテリトリーに上がる居心地の悪さと呼ぶべきなのかよくわからないむず痒いような感情を背中に隠してお邪魔します、と呟く。相変わらず律儀だな、なんて言うものだから少しだけ悔しくて背中を指先でつついておいた。
「いたい、痛い」
「思ってもないくせに」
「まぁ」
「すぐ嘘つくぅ……」
 別にそういうところ嫌いじゃないけど。冗談だってわかるから。長引くような嘘のつき方はしないし、あと、深刻な嘘もつかないから。拗ねたポーズだけ取ればあまり表情には出ていないけれど、ちょっとだけ苦笑いしてとりまるくんは私のほっぺたをむに、と両手で軽くつまんだ。
「何がいい?」
「おきづかいなく」
「お客様には気を使うものなんで」
「おきゃくさまかぁ」
「お客様です」
「んふふ」
「だから何にしますか」
「飲み物いらないから一緒いる」
 少しだけ踵を上げればちゅ、と可愛らしい音を立てて唇がくっつく。歳の差とかなんだとか色々考えてたけれど、私は彼のことが好きだし、彼も私のことが好きだからもうなんでもいいのだ。ほっぺたに添えられたままだった手に自分の手を重ねてそのままゆっくりと下におろす。ついでに指を絡めてにぎにぎしておいた。
「なに……」
「とりまるくん照れてる」
「急にされたら、そりゃ、びっくりするもんでしょ……」
「かわいい」
「……かわいくはない」
 あ、拗ねてる。可愛いって言われて拗ねるの、16歳だなぁって勝手に思う。とりまるくんはこの先の3年間で今より背が高くなるんだろうか。そうしたら、今は背伸びすればちゅうできる距離感だけど、それも難しくなっちゃうのかな。可愛いとりまるくんはいずれ可愛くなくなっちゃうのかもしれない。いや、それはないな。とりまるくんは何してても可愛いし、かっこいいので。
「かっこいいよ」
「取ってつけたみたいでなんか嫌すね、それ……」
「本当に思ってるって」
「たとえば」
「……かお?」
「それはそうですけど」
「うわ! でた」
「何」
「顔がいいことをわかっている発言」
「なまえ先輩が俺の顔好きでいてくれるならいいに越したことはないんで」
 そういうところなんだよなぁ。何も言い返せなくてもう一回ちゅうってしておく。まつ毛ぶつかりそう。やっぱりいつ見ても綺麗な顔だな、と思った。
「……今日は積極的すね」
「嫌?」
「嫌じゃないです」
 むしろ好き、と続けられて、頸の後ろを繋いでない方の指がかりかり掻く。わざとバランスを崩して胸元にぎゅう、と抱きついても微動だにしない彼氏の体幹の良さにちょっとむかついた。私だっていつかこうなるんだからな。たぶん。
「……彼氏の部屋なので、えっちな気分になってしまったんですが」
「えっちな気分、なっちゃったんですか」
「なっちゃいましたね……」
「大変だ」
「えっちなのはお嫌いでしょうか」
「大好きですね」
「大好きでしたか」
 面白くなってんふふ、なんてだらしなく笑えばとりまるくんはそのまま私をぎゅっと抱き上げてベッドの上に転がした。すん、と鼻を鳴らす。胸の奥がどきどきした。Tシャツの脱ぎ捨て方の乱雑さとか、服の中に滑り込んだ手のぎこちなさとか。一個一個の拙い部分が全部愛しくて、ちょっとだけ体を起こしてもう一回ちゅっ、とキスをした。
「……する?」
「ここに来て止まれるほど大人じゃないんで」
「あはは、かわいい」
「……最初はなまえ先輩、ずっとダメって言ってたのに」
「うるさいなぁ!」
「俺はいいんすけど」
 カウンターを食らってきゃんきゃん吠える私のことを見下ろす両目はしっかり私のことを好きって言ってるから、なんだかもうどうしようもない。ぷいって顔を背けて拗ねてるフリをすれば、くすくす笑いながら京介くんは「なまえさん、やっぱかわいいですね」なんて言って私の下着のホックを外した。


最初はそれにも手こずってたくせに



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