何かの拍子で、釣り合ってないんだろうなと思った。一度頭を出したマイナスの感情は消え失せることなくずるずると思考を悪い方へ引きずる水先案内人になり、そうして行き着いた先は別れよう、たったそれだけ。私のわがままから始まった関係を終わらせるのもきっと私のわがままなのだろう。顔をあげる。
「隠岐くん、別れよう」
「……は?」
 そんな顔もできたんだなぁ。最後に知られてよかったよ。
「なんや、冗談やめてやぁ、笑えんて」
「冗談じゃないよ、こんな冗談言わないよ」
「なんなん急に、今言わんでもええやろ」
「今言わなきゃずっと言えない気がして」
「それでええやん。ずぅっとそんなこと考えんでよかったやろ」
「隠岐くんは別に私じゃなくてもいいでしょ」
「誰がそんなこと言うたん」
「誰も言ってないけど、……」
「……何、自分、何が言いたいん?」
「だから、別れようって」
「別れんよ」
 いつの間にか普段浮かべている柔和な笑みはどこへやら、ごっそりと感情が抜け落ちた顔で私の手首をぎちぎち音がなりそうなほど握りしめた隠岐くんは念押しとでも言うように壁にそのまま私を押しつけた。ふわふわした雰囲気のわりに、隠岐くんは背が高い。見下ろしてくる鋭い視線がいたくてこわくて、目を逸らす。
「君が、いけないんよ」
「なにが、」
「ほんまはこんなはずやなかったんやけどなぁ」
「おきくん、?」
「別れようって言い出すからなんやと思ったら、自分やなくてもいいとか、ほんま、なんなん?」
「だって、」
「自分やなかったら寂しくてかなわんからお願いって言うたらそばにいてくれるん」
「……どういうこと?」
 目をぱちくりしてから、それで、それで。
「まぁ、もうお願いなんて可愛い言い方もせぇへんけど」
 おとがいを指で掬われる。換装体だとグローブの下に隠されているはずの素肌は、制服の今剥き出しのままだ。白い指にかけられる。
「別れようなんて、そんな甘っちょろい言葉で逃げられると本当に思ってたん? ……アホやなぁ」
 頭上に濁った瑠璃が降る。そんな色もするなんて、今さら知りたくなかったのに。


あなたそんな顔できたの



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