ガチャリと玄関の鍵が開錠される音がして、少しだけ乱暴にバタバタと扉が開く。今日は普段より少し疲れているらしい。壁に手をつきながらパンプスを脱ぐ姿に声をかけた。
「おかえりなさい」
「とりまるくん!」
 鞄を床に落としてぎゅう、と抱きついてくる恋人の背中に腕を回す。疲れた、なんて小さくこぼしてピッタリくっついてくるのが愛しくて頭を撫でた。
「今日は面接?」
「うん……」
「お腹空いてる?」
「……すいた」
「夕飯作ってるけど」
「えっ!」
「ついでに冷蔵庫何にもなかったから買い物もしてきた」
「およめさん……?」
「逆の方が嬉しい」
「ぎゃくかぁ」
「もう食べる?」
「たべる!」
 お腹ぺこぺこだよ、なんてはにかむ彼女の腹部にそっと手を添える。平坦なそこを軽く撫でればくすぐったそうに身を捩った。

 見た目のわりによく食べる恋人がその細っこい体のどこに食べたものを隠しているのかずっと不思議でならなかった。寝巻きのシャツの裾から手を滑り込ませれば風呂上がりでまだ温かい肌が指先に触れた。
 胃下垂、という単語を初めて聞いたのは彼女の口からだった。細身で筋肉も脂肪もつきにくい体質の人は胃が正常な位置より下がりやすい、らしい。特段症状がない場合は治療も必要ないが、食後に下腹部がぽっこりと膨れるのが恥ずかしいのだといつだかに明かしてくれたことをそれはそれはよく覚えている。
 この人が食べたものがここに収まっているのだと確認できる術があるということに仄暗い興奮を覚えた。それはすなわち、自分が手ずから作ったものが彼女の体になることを確認できるのと同義だということだ。先程は凹んでさえいた下腹部をなぞる。ふく、と膨らんだそこは確かに質量を持っていた。
「きょ、すけくん……?」
 しぱしぱ瞬きして不思議そうに首を傾げる姿は幼い。この薄っぺらい胎に、何もかもを詰め込んでしまいたい。そうしたらこの人はいつか、全部俺のものになってくれるだろうか。細い肩が纏うには些か大振りなシャツをたくしあげながらそっと耳元に顔を寄せた。どうかこの人の頭のてっぺんから爪先まで、髪の一本から爪の垢のかけらまで、俺のものになってくれますように。

「此処、早く俺でいっぱいになってくださいね」


ぼくだけの胎



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