吐き出した息が白く濁り、夜空へと溶け込む。見上げた空は都会とは思えないくらいに綺麗で、思わず見入ってしまった。キラキラと輝く星がいつもより近くて、なんとなく手を伸ばしてみた。当たり前のようにそれらには手が届かない。
「……風邪引くよ」
いつの間にお風呂から上がったのか、パジャマ姿の一松が隣に腰掛ける。
「一松こそ、冷えちゃうよ」
「俺より自分の心配して」
あんまりにも真剣な表情で言うものだから、顔に熱が集まる。それを悟られたくなくてまた空を見上げた。黒い下地に瞬く何億もの星。なんとも神秘的で、不思議な感じだ。冷たい風が髪を揺らし、首筋をなぞる。ぶるり、鳥肌がたつ。
「……一松」
「なに?」
「…くっついても、いい?」
恐る恐る顔をあげれば優しい笑みを浮かべた一松が私を見つめていた。いつもは気怠げなはずの眼差しがとても柔らかなものになっていて、むず痒さを感じる。なんだってそんなに幸せそうな顔ができるんだ。
「寒いの?」
「う……違う……」
「嘘つかないで、鳥肌立ってる」
「ごめんなさい、寒いです」
「だから、言ったでしょ」
「ごめんなさい……」
「ほら、おいで」
自らの膝を軽く叩く一松に甘えるように擦り寄り、はたと少しだけ考える。私が足の間に座ることを悩んでいたのを察したのか、一松がちょっとだけ笑った。それがなんだか癪で、ぺちんっと軽くおでこを叩いてから足の間に割り込んだ。ついでに一松が持ってきたであろうブランケットを広げて膝に掛ける。ふわふわとした紫色のブランケットは、私のお気に入りだ。
「……贅沢してるなぁ、私」
「なに言ってるんだか」
「一松を独り占めだなんて、他の人にはできないね」
「お前の特等席だからね」
お腹に回された手に自らの手を絡めながら、一松を見上げる。本当にこの男は突然爆弾みたいな甘い言葉を吐き出すから困る。おかげで顔は熱くなりっぱなしだ。熱を逃がすようにして顔を仰ぎ、どうにかして意識をそらすために言葉を紡いだ。
「至れり尽くせりだね、私」
「これでも足りないくらいだけど」
「え」
ダメだ本当に、今日はどうしたっていうんだ。顔をあげればさっきと変わらない優しい眼差しが降ってきて、どうしようもなくなってしまった。ふわふわのブランケットの裾をぎゅっと握りしめる。
「一松」
「なに?」
「私、幸せだ」
「そう」
「……一松」
「なに?」
「…私、大好きな一松と一緒に居られて幸せだよ」
お腹に回された手が少しだけきつくなる。きっと彼は照れた表情を隠そうと肩に顔を埋めているのだろう。見えない彼の表情を想像して笑みが溢れる。乾かしたばかりのふわふわの髪の毛が頬にかかって擽ったい。でも、そんな些細なことさえ全部全部幸せに感じる。すぅ、と息を吸い込めば、冷たい冬の香りと大好きな一松の匂いがした。
「…僕も、なまえいられて幸せだよ」

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -