噎せかえるくらいの酒の匂いに、混ざり合った香水の香り。人の多さも相まって、思わず酔いそうになる。何を思ってか手に取ってしまったシャンパンの水面をぼんやりと見つめた。どうしてこんなことになったかなんてとっくに考えるのをやめている。
天井から吊るされたシャンデリアは圧倒的な存在感を発している。貧乏性の俺は、一体あれは幾らくらいなのだろうと考えることぐらいしかできない。そんな自分に嫌気がさしながらも他にすることがないために部屋に飾られているオブジェの値打ちを一人で考えてみる。
そんななのに、目の前を横切った紫と心地よい香りには咄嗟に反応してしまうことに自分でも呆れ返った。

「ーーなまえ?」
「一松くん!」
「……なに、その服」

生憎俺は兄さんたちのようにコミュニケーション能力に長けていない。しかし、先に言うことがあるだろうに、真っ先に出たのがそれとはどういうことだ。自分の口下手さに苦笑いしそうになる。

紫の髪留めでいつもは下ろしている髪を高く結い上げ、同じ色のカクテルドレスで自分を着飾っている。オープントゥから覗く爪先は控えめなラベンダー、胸元に光るアメジストのネックレスは、いつだか俺が贈ったものだったっけ。
そう、今の彼女は頭のてっぺんから爪先まで紫で染め上げられている。
じっと目を見つめると、なまえは頬を桃色に染めてはにかんだ。

「一松くんの色だな、って思ったら思わず手に取っちゃって」

だからもう、なんでいつも俺は彼女の言動の一つ一つに動かされてしまうのだろうか。その表情にその言葉は、俺を喜ばせるには充分すぎる。それどころか気持ちを持て余してしまいそうだ。
彼女の手を引いて中庭に出る。やわっこい小さな手のひらは、自分のそれとは違う儚くて優しいものな気がした。

「一松くん?」
「……本当に、あんたって人は」

跪いて指先をゆるりと掬い上げ、視線だけを合わせる。指先を染める爪先と同じラベンダーに、愛おしさが積もっていく。その自分色に染まった爪に、そっと口付けた。

「俺と踊ってもらえますか、お嬢さん」

暗闇の中でもわかるくらい、さっきとは比べものにならないほどほっぺたをりんごのように真っ赤に染めるなまえに笑みがこぼれる。いつか小さい頃に絵本で見た王子様はこんな気持ちだったのだろうか。
わたわたしながらもしっかりと頷いた彼女を見て、柄にもなく、「俺のお姫様はなにをしていたって愛おしいんだろうな」なんて考えながら腕を引いて抱き寄せた。

今夜は、離してやるつもりなんてあるもんか。

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