最近、カラ松兄さんが煙草を買ってくるようになった。だけど、本当に買うだけで、あとはそのまま。別に吸うわけでもないから、どんどんと未開封の箱が積み重なっていく。
「カラ松兄さん、煙草吸わないの?」
「おう」
「じゃあなんで買ってくるの?」
「べ、別にいいだろ」
「ふーん……とりあえず、それなんとかしてね」
一箱、二箱だったらまだ気にも留めなかっただろう。でもそれが十箱近くになってきたなら話は別だ。嗜むわけでもないそれを無意味に買い漁るだなんて、それは些か無駄なのではないだろうか。
座布団にドカリと腰を下ろしてテレビを見始めた兄さんを横目に、仲良くなった女の子にLINEを返した。
「……不思議だなぁ」
「なにがだよ」
「ううん、なんでもない」



「あれトド松、出かけるの?」
チョロ松兄さんが靴を履いている僕に声をかける。手に持っている雑誌は、大方好きなアイドルの特集が組まれている物なのだろう。普段は雑誌なんて手に取りすらしないのに、こういう時だけは真剣に集めてくるんだから面白いと思う。
「ちょっとコンビニまで。すぐ帰ってくるよ」
「気をつけてね。いってらっしゃい」
「はーい、いってきまーす」
爪先を床に軽く打ち付けて家を出る。
別に目的があるわけではない。ただ、確かめたいことがあるから、それを確認しに行くのだ。
カラ松兄さんがいつも煙草を買ってくる時に持っているビニール袋は家から一番近いコンビニの物ではない。歩いて15分くらいかかるところのものなのだ。
のんびりと足を進めて、目的地の目の前で止まる。僕の推測が正しければ、カラ松兄さんはおそらくその顔に似つかわないような可愛らしい理由でここに通い詰めているのだろう。
少し重い扉を押して店内に入る。微糖の缶コーヒーを一つ取って、レジに向かった。
「お願いしまーす」
財布を出して代金を置けば、レジの女の子は困ったような顔をした。
「……今日は、煙草を買って行かれないんですか?」



「本当にすみません!」
「そんなに謝らないでよ!僕の方こそごめんね?」
「いえ、でも、申し訳ないです…」
僕とカラ松兄さんを間違えたレジの女の子は、なまえちゃんという。どうやらカラ松兄さんと仲がいいらしい。と言ってもお互いに名前も知らないし、レジですこし言葉を交わす程度の関係みたいだけれど。
「いつも、ブラックコーヒーを持ってきて、レジで煙草を買っていかれるんです」
「へー…ブラックコーヒー」
かっこつけの兄のことだ、いい姿を見せたかったのだろう。……からかうネタに使えそうだなぁと思ったことは内緒。
「まさか、六つ子だったなんて…」
「あはは、珍しいもんね」
「びっくりです」
両手で持ったココアをなまえちゃんが一口含む。僕からのプレゼントというには些かささやかすぎるそれは、驚かせてしまったことと、バイト終わりで疲れているのに付き合わせてしまっていることに対するお詫びだ。
「……かっこいいなぁ、って」
「えっ」
「名前も、年も、どこに住んでいるかも分からなかったけど、でも、かっこいいなぁって、ちょっと憧れてるんです」
桜色に頬を染めて、可愛らしくはにかむなまえちゃんを見ていたら、カラ松兄さんが通い詰める理由もわかった気がした。
「……もっと、仲良くなってみたいなって」

カラ松兄さん、案外希望はあるのかもしれないよ。

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