Say good-by to yesterday

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「それにしても・・・、ジョーカが女の子だったと言うのは本当に驚いた・・・」

長い夜が明けたヴェネツィアの石畳を踏み締め、マニゴルドの横のアルバフィカが口を開く。
先程別れたばかりの、今回の一件に多大な貢献をしてくれたジョーカ。
その晴れやかな笑顔と姿は出逢った頃のみすぼらしい窃盗少年ではなく、まったく年頃のうらやかな少女の姿であった事を思い出す。

「ん?何だアルバフィカ、気付いてなかったのかよ?」
「・・・・・・・ちょっと待て、マニゴルド。お前その口ぶりは・・・知っていたのか?」

予想外に何を今更とでも言いたげな顔で返されて、アルバフィカは一瞬呆気に取られた後で詰め寄るように問い返した。
思いがけず小奇麗な顔が距離を詰めて来た事にニヤニヤと笑みを交えながら、マニゴルドはハ、と鼻を鳴らす。

「んまぁ、ただの直感で確信はなかったけどな。アイツも隠してるっぽかったし、あれはとんでもねぇクソガキだがよ、曲がりなりにもレディに対して『お前女?』って訊くのは男として失格ってモンだろ」
「・・・・何で。いつ気付いたんだ・・・?」
「いつって。直感だもんよ、最初からさ。財布スられた時」
「信じられん・・・・。何故私も気付けなかったんだ・・・。・・・だからお前は、最初の段階であれほど彼女を巻き込むのを嫌がったんだな・・・」

あの時点でせめて私も気付けていれば、とアルバフィカは途端に表情のコントラストを落としてしまう。
確かにジョーカを連れて行く事になったのは、アルバフィカの説得があっての事だった。
しかし、マニゴルドは今となっては彼女を巻き込んだ形になった事を悔やんではいない。あれほどの晴れ晴れとした笑顔で見送ってくれたのだから。
マニゴルドが最初にジョーカに対して言ったように、彼が手を貸さずとも彼女は結局彼女自身の意思と力で、未来への希望を手にした。
強い子だった。いくら自分の道は自分で切り開いて何とかしろとは言っても、実際に出来る人間はそうはいない。
それをあんなにも鮮やかに、彼女は己の未来を照らしてみせた。

「何言ってんだ、お前があそこで俺に説得したからこそ、あいつは結果として自分の運命を知ってそれを自分で変えて行く術を知ったんだ。まぁ、あそこで拒んでもあの性格じゃまた勝手について来たんだろうが」
「しかし、もう少し気を配る事はできたはずだ・・・」
「いーーーんだよ!お前は普段からいらんほど気ィ配ってんだから。あいつだって自分で言ってたんだろ?男とか女とか関係ねえって。俺はあいつが男だろうが女だろうが守ってやろうって気はハナからねぇよ」
「・・・・・・」
「ンな顔すんなよ。さっぱりした顔してたじゃねぇか。それでいいんだよ、そいつが一番だ」
「・・・そうか。・・・そうかも、しれないな」

ようやく吹っ切れたように微笑む麗人に、マニゴルドも笑顔を向ける。

「あいつは大丈夫さ。なんたってあのちっけえ体の中に宇宙持ってんだからよ。俺たちと一緒でさ」
「・・・元気でやってくれるといいな」

常日頃から下ばかり見がちな同僚は、そう言って抜けるようなイタリアの青空を仰いだ。
その顔には此処へ来る前に見せていたような憂悶とした色も顰《しか》め面もない。
彼本来の表情なのであろう、棘を取り払った薔薇の柔らかな美しさだけがそこにはあった。

「・・・嬉しいねェ。今日のアルバちゃんは自分から近付いて来てくれる上に、そんないい笑顔見せてくれるワケだ」
「・・・・・・・!!な・・・ッ・・・」

言われて初めて自分自身の近さに気付いたアルバフィカは慌ててマニゴルドと距離を取ろうとするが、時は既に遅く、掴まれた腕がそれを許さない。
そう、本来であればこれほど近くてもマニゴルドには何の害もないはずなのだ。
口には出さないが、それを態度で言い聞かせるように近付いた距離を1ミリたりとも剥がさない。

「離せ、マニゴルド・・・!」
「・・・・なぁ。やっぱお前、1日付き合え。俺と」
「は・・・・はぁ!?馬鹿を言うな、一刻も早く教皇様にご報告を・・・!」
「やーっぱよ、ヴェネツィア来たからにゃーゴンドラ乗らねぇとな!」
「おいこらっ!聞け!!聞こえてるくせに!」

掴んだ手を離さず、来た道を逆走し出すマニゴルドにアルバフィカは怒声をあげる。
まるで子供時代に戻ったようにはしゃぐ蟹座の聖闘士を前に魚座の聖闘士は本気で頭を抱え始めていた。
いきなりすぎる距離も慣れない。他人に触れられる事にも慣れない。こんな大きな子供を持ったような気分にも慣れない。

「このッ・・・馬鹿蟹がっ!!」

未だ若干10代の黄金聖闘士2人は、今だけはその冠詞を取り払ってヴェネツィアの市街を駆けていた。


[fin.]


  

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