Would you like some sweet wine?
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「・・・・・・酒なんて買ったのか?」
「ん〜?まあな」
部屋の中で何よりも先に革袋の中からワイン瓶を取り出したマニゴルドを見て、アルバフィカは柳眉を顰≪ひそ≫めた。
この忠誠心篤く真面目な同僚が機嫌を損ねるのも想定の範囲内なのだろう、マニゴルドは適等な返事で流すとアルバフィカへパンを投げて渡しながら傍にある手頃な木箱に腰掛ける。
マニゴルド、とやや低い声でそのストイックな同僚はたしなめる。
「・・・長旅ではあるがこれは旅行ではない、任務だぞ」
「そう固ェ事言いなさんなって。あ、お前も飲むか?」
「飲まん!!」
「おーおー、怒鳴んなよ怖い怖い。美人が怒ると迫力あるぜ全く」
「マニゴルドッ!」
どうあっても茶化し続ける彼に、さらに怒りマークを額に増やしてアルバフィカは怒鳴る。
怒られている当の本人はと言えば、肩を竦めてパンを齧ってみせるだけ。
「あのなぁ、俺だって蟹座(キャンサー)しょって生きてる身分だ。飲んだくれたせいでミス犯すなんてヘマしねぇさ。でっけえ仕事の前にはいつも飲むんだ。適度なアルコールは燃料になるからな」
「・・・そういうものか・・・?」
「そういうモンじゃね?」
「・・・・・・」
まともに言い返してやると、アルバフィカは顎に手をあてたまま考え込む仕種をする。
キュポ、と音を立ててマニゴルドはワインのコルクを抜くと直接飲み口をくわえて一口分喉仏を上下させた。
「ははーん、さてはアルバフィカ。お前酒弱いんだろ」
「な・・・・・・」
弾かれたように顔をあげた同僚は明らかに狼狽の色を見せている。
「確かに飲むとすぐ酔うようなヤツには分かんねぇかもな〜、あの適度な高揚感」
「違う!」
「違うの?」
「の・・・・・・飲んだ事がないだけであって、弱いわけではない・・・!・・・と思う」
ぽかん。
とでも顔から音が出そうな呆気に取られた表情でマニゴルドは口からパンを零す。
「・・・マジか」
「・・・・・・・・」
「・・・お前、アスミタですらこの前飲ましたら飲めてたぞ」
「・・・!?」
2歳下の禁欲的な後輩が既に飲酒のヴァージンを卒業していた衝撃にアルバフィカはパンを持ったままで固まっている。
それと視線を合わせるようにマニゴルドは首を傾げて、手にしたワイン瓶を揺らしてみせる。
「・・・飲んでみる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・飲まんっ!!!」
「うおおおあぶねえ!!」
返事と一緒に帰って来た黒薔薇は見事にマニゴルドの顔の数ミリ横を通って壁に刺さった。
幸いピラニアンローズではなく、ただの薔薇だったらしい。
窓枠に腰掛けたアルバフィカは完璧に機嫌を損ねたらしく、顔を逸らしたままで黙々とパンを千切って口に運んでいる。
「あぁー・・・じゃあ帰ったら一緒に飲もうな。ワインなら俺ンとこにヴィンテージのラベルが何本かあるから」
「いらないし来るな」
やたらニコニコと笑っているマニゴルドには、アルバフィカの拒否の意向など毛ほども気にしている様子がない。
まだほんのり温かいフランスパンをかじりながら、死刑執行人の異名を持つ陽気な男は考える。
(さて、帰ったらどのラベルからくれてやろうか)
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