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「・・・まだ悩んでんのかよ・・・?」

うんざりしたような呆れたような声を背後からかけられ、アルバフィカはどもったような声を悔しげに漏らした。
彼の目の前には焼き立ての、まだ湯気すら立ち上っている多種多様なパンが棚一杯に並んでいた。

「す、すまない・・・」

教皇から仰せつかって赴いた任地での初日。
ひとまず寝泊まりが出来そうな空き屋を見つけたと共に食物をと買い込みに来たはいいのだが、さっさと自分の食べる分を決めて袋に入れたマニゴルドの隣でアルバフィカは眉間に皺を寄せて悩みきっていた。

「お前ほんと、食い物の事になると女々しいよな・・・」

直接人に触れたり物に触れたりできないアルバフィカの代わりに、マニゴルドがまとめて買って代金を払うという取り決めは任地に赴く前のミーティングで決めた事である。
あまりの煮え切らなさは自覚がある上に、マニゴルドも気を利かして店内をぐるっと見回って来たにも関わらず、まだどのパンを買うか決め兼ねている自分に対して心底呆れているに違いない・・・と思えば、普段は絶対に聞き咎める台詞にすら文句も返せずにアルバフィカは肩を落とした。

「・・・俺が決めてやろうか?」
「・・・・・・頼む」

本当は自分の食べるものくらい自分で決めるのが普通だが、最早そんな事を言っている余地はない。
店主か店員かはわからないが、さっきからチラチラと視線を投げて寄越されているのは確かだし、こんなどうでもいい事で下手に注目を浴びてしまっては二人としても困るのである。

「で、どれとどれで悩んでたんだ?」
「え・・・?」
「いいから早く教えろって」
「あ・・・、その・・・、それとこれとあれと、あっちのあれと、あとそこの・・・」

その調子でずらずらとアルバフィカが列挙したのはざっと8種類ものパンだった。
想像以上の同僚の煮え切らなさに、マニゴルドは口だけでハハ・・・、と笑った。

「まあいいや・・・、どれどれ、どーれーにーしーよーうーかーなー、アーテーナーのーいーうーとーおーりー、せーのーせーのーせー、こーれーにーきーめーた!! よし、これな」
「・・・何だろうか今の胡散臭い歌は?」
「深い事気にしてたら幸せになれないぜ、アルバフィカちゃんよ。でもこうすっと必ずどれかに決められるだろ」
「な、なるほど・・・・・・」
「おいおっさーん!これでいくら?」

マニゴルドが陽気な声で皮袋を店員に手渡す。
アルバフィカが悩んでいる間にいろいろ買い込んだのか、皮の袋はずっしりと重そうに張っていた。

「おし、今日の所はこれで帰っとこうぜ」
「ああ・・・、そうだな」
「・・・お前、できれば明日からは10秒でスパッと決めてくれな」
「・・・・・・ぜ・・・善処する・・・」

隣の人美人だからまけといたよ、と帰ってきた皮袋の中身は、アルバフィカが悩んでいたパンのうちの一つが増えていた。
それを有り難く思いつつも、ああもう明日からここでパンは買えないな、と頭を悩ませるのもまた栓のない事。

「良かったじゃん。結果オーライ結果オーライ」
「・・・そういう事にしておこうか」

屈託ないマニゴルドの笑顔にそう言われては、アルバフィカとて口元が緩む。
口の軽さの裏に、深い温かみを感じる。
夜はまだ長い。


[fin.]


  

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