静←臨←門 | ナノ



臨也は苦しそうな顔で天を仰いだ。片想いなんてもうへとへとだよ堪えられないと言って両手を空へと伸ばす。その手を引いてやるべきなのは俺じゃない。俺じゃないのだ。解っているはずなのにああ恋心という物はどうしてなかなか厄介な代物でこんな時でさえ彼の温度を欲してしまう。

誰かが誰かを好きになって、その思いが通じ合うなんてきっと天文学的確率だ。だってそうだろう。遂げられないからこそ、人間達は何世紀も前から愛ばかりを題材にしている。おそらくそれは永久に廃らない流行だ。

静雄が臨也の事をどう考えているのかは分からない。分からなくて良いと思った。場合によっては自分はあらぬ期待を抱いてしまうだろうから。臨也は物憂げに息をはいた。その姿にさえ胸が締め付けられる。

「やっぱりさ、ダメもとでも言った方がいいのかな。言ったら、シズちゃんが好きで好きでしょうがないこの気持ちは軽くなるのかな」

門田のこころに小さなひびが入った。それはみるみるうちに広がって、やがてぱっくりと傷口を開いた。こころが不格好に二つに割れる。じくじくと痛む片っ方はそうだなお前がそうしたいなら言ってみればいい駄目だったらいくらでも俺が話を聞いてやるよさあ行ってこいと彼の背中を押そうとしている。もう片方は立ち上がりかけた彼の腕を掴んで、やめろ行くなここに居てくれ俺を置いていかないでくれとみっともなく懇願しようとしていた。でもそちら側の傷口はすぐに瘡蓋が蓋をして、喉元までせり上がった言葉をうまく隠してしまう。ああそうだ、どうせそんな事言えやしないのだ。自嘲気味に笑う。門田は理性的な男だった。それが幸せなのかどうかは彼には分からなかった。

「駄目かどうかなんて、確かめるまではわからないだろう?」

ほらまたそうやって、ありがとうって笑うから。俺は永遠に引き金を引けないまま。