夕陽に照らされて茜色にそまった放課後の教室には、私と恋次の2人だけ。
掃除が終わったばかりの床には、椅子に座る2人の影が伸びている。
開け放たれた窓から、トランペットの音が聞こえる。真上にある音楽室で誰かが自主練しているんだろう。
そんないかにも「青春」って感じの雰囲気だけど、私たちがわざわざ残っている理由は愛の告白とか、もちろん恋人の甘い時間とかではなく。
「もうダメ。私帰る」
「ちょ、お前ふざけんな!」
日直の仕事である日誌を、一週間分まとめて書いているからである。一週間まるまる仕事をサボるなんて、ものすごい度胸の持ち主か、かなり周りを気にしないマイペースだけだろう。
だけど私たちは前者でも後者でもなかった。
「恋次が一週間も書かなかったのが原因でしょ。私は一切無関係です」
「待て、お前も日誌だろ。俺は一週間 筆箱忘れただけだ」
「ふっ、私は日誌の存在すら忘れてたよ」
「右に同じく」
ただのアホである。
だけどアホはアホなりに頑張って、一週間分の記憶を脳の奥から引っ張り出して日誌を書いていた。
「つーか、お前も少しは書け」
「いや〜、私 字下手っぴだか「嘘つくな。アホ」
はぁ、と深いため息をついて恋次は机に肘をついた。窓から入ってきた風で、私の髪は少しなびく。
それを恋次はじぃっと見ていた。
「なに、見てんの」
「なぁ、女ってどうやって告白されんのがいいんだ?」
「はぁ?なんで」
「いや、俺 今度告白すっからよ」
恋次の言葉がぐるぐる頭をかけ巡る。でも私にはよく理解できずにいた。
「告白……?」
恋次は私と視線を外しながら、ゆっくり頷いた。
今まで好きな人や気になる人ができたら、お互いにそれとなく教えてきた。まさか、ついに恋次が言っていた子に…告白するのか。
「んー。やっぱり直接言われるのが嬉しいんじゃないかな?私はね、ふふふ」
「あーキモイキモイ」
「キモイとか言うな。友達やめるぞコラ」
「いいぜ」
は?なにコイツ。
友達やめていいなんて、意味がわからない。なんか泣きそうな自分も、意味がわからない。胸のあたりがムカムカしてきた。
「で?いつ告白すんの?」
うるんできた瞳をかくすように、目を伏せた。
音楽室からのトランペットの音が止まり、メトロノームのカチカチとリズムをとる音が聞こえた。
気のせいだろうか、その少し速いリズムと私の心臓のドキドキが同じくらいの速さなのだ。
「あー…、あと5秒後だな」
「5秒!?」
「5秒…4、3、2」
「えっ…ちょ、それ…」
メトロノームと揺れる