――ああ、気に入らない。どこがって、アイツの全てが。
どんなにどん底に落ちようが、アイツは這い上がってくる。そして、オレのことなんかまるで気にしてないような態度をとって、オレのことなんか気にすることなく、更なる高みを目指す。その度に、オレはアイツの足元にも及ばないことを思い知らされる。
結局、オレはアイツの代わりでしかなかった。アイツがオレの代わりなんじゃなくて、オレがアイツの代わりだったんだろう?結局、誰もオレになんか興味なかったんだろう?
なにが腹違いの兄だ。小さい頃はあんなに尊敬していた父親も、今は見るだけで反吐が出る。母親は金さえあれば親父がバイだろうがショタコンだろうが浮気しようがいいらしいし、あんなにオレに忠誠を誓っていたはずの親父の秘書だって、今はオレに小言を言うばかりだ。
それも、これも、全部あのアイツのせい。そして、アイツの恋人のせい。
だったら、壊してしまえばいい。
オレは、オレのやり方で。こんな世界ぶっ壊してやりたい。
「…ここ、は」
金で雇った奴らに、七峰太一を拉致らせた。縛って、芋虫みたいに床に転がった姿は淫乱な雌犬にはよく似合っている。
「ああ。いい感じに映ってるぜ?」
三脚の上のカメラを覗き込むと、なかなか上手く撮れている。アイツがこれを見たらどう思うか、そう考えるだけでゾクゾクした。
「…なん、で」
「ああ?そんなことお前に関係ないだろ」
地面に転がった太一は、案外冷静な瞳でオレに問う。
「……何が目的ですか」
「…とりあえず、これをアイツに送りつけてやろうかなって」
だけど、そう言った瞬間の太一の表情ったらない。
――ああ、オレはこんな顔が見たかった。
絶望に塗れた、今にも泣きそうな顔。
そんな顔は、見ているだけで腹の奥底が煮えたぎるように熱くなる。
太一はなにか言おうとして、唇を開きかけてやめた。
そして、オレを睨む。その表情は、いつもアイツの隣で腑抜けた顔をしているときよりもずっと良かった。
「…だったら、これ、解いてください」
「やだよ、お前逃げるだろ」
「逃げません」
ハッキリと太一は言うが、信用なんて出来るわけがない。
近付いてその顔を蹴りつけると、鈍い音がした。
「…こんなことしても逃げないって言えるのか?」
ぼたぼたっ…と太一の鼻から鮮血が散る。でも、太一は何も言わずオレを真っ直ぐ見るだけだ。
「…逃げません、から」
「なんだ、オレにヤラれてぇの?恋人に操立てしねぇのか」
「…したい、けど」
一瞬だけ、太一が目線を落とす。
どうせアイツのことでも思い出しているのだろう。それが気に入らなくてまたその身体を蹴り飛ばすと、太一は犬のように這い蹲る。
その姿を見ていると、こっちまで気分が萎えていく。
「おい、起きろ。まだ話は終わってねぇ」
髪の毛を掴んで起き上がらせる。目に入るのは、血と涙でぐしゃぐしゃのきったねぇ顔。
オレを見る目は怯え、身体は微かに震えていた。
だけど、そんな顔が気に入るかと言ったらそれは違う。
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