とある戦場で(クザン、サウロ)
変なやつ、というのが初対面の彼に対しての第一印象だった。
あとになってそう言うと、こっちだってそうだで、と彼は臆面もなくそう答えた。いっくら見慣れてたって最初は皆ビビるもんだ、と言って笑った。そりゃあもう豪快に。

別に慣れ合おうだなんて気にもなれない。どいつもこいつも顔を引きつらせ、一歩も二歩も引いて近寄らねえ。いいんだおめーらはそこに居れば。下手に動くんじゃねえぞ鬱陶しい。
なのに、あいつは笑いながら近寄ってきた。凄えなあ、見事だ。そう言って肩を叩いた、んだと思う。実際には吹っ飛ばされた。加減ってもんがあるだろうが。

「ッてーな…何しやがる…」
「デレシ!おめえ強ぇなあ!」
「声がでかい…」
「声だけじゃねえで、転ばせちまった。すまねえ」

聞いたこともないような笑い声の、巨人。今更驚かねえよ、もう幾人か見てきたんだお前みたいなやつ。ただ、こんなふうに並のサイズのひとに対してスキンシップをはかろうだなんて馬鹿は居やしなかった。砕けた右半身が再生していくのをしげしげと眺め、ほんとに凄いなあなどと感心している。一体誰の所為だと思ってんのよ。

「なんなのアンタ…」
「おめえ、ガープさんが連れてきたってやつだろ」
「先に名乗んな、失礼だろ」
「ああ悪い、サウロだ。ハグワール・D・サウロ」

それは握手のつもりか。指一本がひと一人分の身長くらいありそうな手を差し出してきた。できるわけないだろでかすぎだ。呆れたこちらを気にするふうでもないそいつ、サウロは、まあいいかと言って摘まんだ。何をって、おれをだ。

「おい!」
「暴れんな、おめえ怪我してるんだで」
「はあ?!怪我なんて…」
「顔も腹も真っ赤だ、気づいてねえのか?」

案外鈍感だなと言ってまた笑う。違うぞこれは返り血だ、て言うか今見てただろおれが再生するの。それに、怪我人だと思ってる相手を吹っ飛ばすたあどういう…まあもういいや、疲れた。

膝下まで水に浸かりゃあ、そりゃあ力は抜ける。臙脂色になった制服をいい加減に洗い、絞ろうとしたけれど、まるで腕に力が入っちゃいねえ。諦めて顔と頭に水をぶっ掛け、適当に身体をこする。河岸にあぐらをかいた巨人は、他に何をするでもなく妙に上機嫌でこっちを見てばかりいた。気持ち悪いやつ。

「なあんだ、どっこも怪我してなかっただか」
「だから言ってたじゃねえの…」
「そりゃよかった!デレシ!デレシシシ!」

汚れと血の匂いを洗い流すには川の水で十分だ。医療班のところまで連れて行こうとするのを断固拒否し、摘ままれていたでかい指からすり抜けてすたすたと上流を目指すと何故かあいつは着いてきた。河口の辺りは全部凍っちまってるから、結構な距離を歩いたのに。よくよく考えたら、おれにとっては結構な距離でもこいつにとったらほんの数歩ってところだ。コンパスが違う。

「よかった、ねえ…」
「よかったで、怪我がねえのが一番だ」
「ヘマするのを今か今かと待ってるやつが多いのに、アンタ珍しいな」
「そういうやつもおれば、おれみてえなやつもおるんだ」

てっきり「何でだ?」とでも言い返されるんだと思っていたら、あららどうして、そこまで間抜け野郎ってワケでもなさそうだ。妬み嫉みがざわざわと煩い下士官連中、つっても何人かは一応上官だ、に混じってやっていると、聞きたくもねえ野次や怒号を貰うことなんてしょっちゅうだ。こいつはそういうのとは無縁そうに見えるけれど、何にも知らないおめでたいやつとはまた違うらしい。

「まあ気にするでねえよ、おめえは異常に強いけどなあ、自分で思ってる以上にふつうだで」
「Dと名のつくヤツはお節介が多いね、どーも…」

アンタと居るとふつうに見える、並のひとだと思える。でっかいからなアンタ。
飯食いにいくか、とまた意味もなく笑ったサウロに、変なやつ、としか返せなかった。つられて笑っちまったからな。

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