play a role(サカズキ、ガープ)
あの男の罪を許すことなど出来ないが、己のしたことも許されることではないと十分承知している。だから余計に腹が立って仕方なかった。
なぜ見逃した。なぜ生かしておいた。なぜ、なぜ。なぜあんたを憎まにゃならんのだ。

当時の苦労や犠牲がどれほどのものだったのか、あの男が知らぬはずもない。何十人、何百人もの兵を投入し片っ端から調べ上げ、疑わしきものはすべて捕らえて尋問し。しかし、あの男はそれを全部無駄にした。たったひとりの赤ん坊のために。

英雄ガープの孫と口にしたときの嫌悪感がひどくて、ロジャーの息子、ドラゴンの息子と呼ぶ方がよほど楽だとすぐに気づいた。
罪人の子に罪はない、そうかもしれない。存在自体は罪ではない、そうかもしれない。であればなぜ出自を明かしたのだ。何も言わず、何も知らせず、自ら関わることなどせず放っておけばよかったものを。

しかし、結局彼らは進んであの道を選んだのだ。罪深い海賊であるのは間違いようのない事実。火拳、麦わら。奴らは悪だ。誰の子だろうと関係ない。あんたが、奴らをどれだけ愛していようが関係ないのだ。


任務を全うするにあたって、こと感情というものがどれだけ不要なものなのか思い知らされる。
あの男はつとめてそうせずとも情を排することに長けていて、とにかく職務に忠実だ。それが出来ないものが敵を防ぎきれず、はびこらせ、しまいには痛い目を見る。己のように。

己の行動原理が、単純だがその時々の感情からくるものが多いのだという自覚は昔からある。
あのときはただ信じた。生まれてきた新しい命を、無垢なものを信じた。父親の純粋な愛も、母親の命がけの愛も知らぬ赤ん坊をどうして放っておくことができようか。まして殺めることなど当然できるはずもない。あんなちっぽけな赤ん坊の命を奪ったところで、この世の何が変わると言うのか。その答えを見出すことができなかった。

反面、これが軍を裏切る行為であることもわかっていた。もちろん軍だけではない、政府も仲間も友すらも、世界中の目を欺きあいつを生かした。罪ならすべて己にある。どこかで何かを踏み外したのなら、それは一番最初のときに遡るだろう。許されることではない。わかっていたのに結局はああした。だからお前は、それを許す必要はない。内側からお前を突き動かすそれも情のひとつだ。激しい怒りの感情、強い憎しみの感情。それがあるから数えきれないほどの市民が、罪のない人々が救われる。

「お前は間違っとらんよ」
「…わかっちょります」
「わかっとらんからここに来たんじゃろうが」

いつも通りの笑い声を上げるガープの前で、いつも通りにキャップを目深に被ったサカズキが口を引き結ぶ。もう少し鍔が上がっていれば、戸惑いか呆れか、蔑みか憎しみの表情を見ることができたのかもしれない。いずれにせよガープには見えていなかった。彼は畳にあぐらをかいて文机の上の紙に視線を落としていたし、立ったままのサカズキはその姿勢を少しも崩そうとはしなかったからだ。

「あんたは…辞めちゃあならん…」
「こういうときのお前さんも優しいな」
「何を…」
「こっちの話じゃ、気にするな」

おつるちゃんに言っておこう、とガープは面白そうにまた笑い、今度ははっきりと狼狽えたことがわかるくらいにサカズキが身じろぎする。しばしの沈黙。いつも賑やかな英雄の執務室に響くのが秒針の音くらいで、その間に耐えきれなかった大将は咳払いをし、とにかく、とことさら大きな声を上げた。

「総帥には…」
「なあ、サカズキよ」
「…はい」
「うちの孫どもが…迷惑かけたなあ」

聞きたくないのか、聞こえなかったのか、大将は首を振り踵を返した。ガープはわずかに顔を上げて赤い背を見送り、やっぱり優しいわい、とひとりごちた。

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