忘刻の宴様へ提出。






其の優しさに、惹かれている事実。




「臨也!御早よう!」

嗚呼、…如何して斯う面倒な声を朝から聞かなくちゃいけないんだ。

「御早よ、」

適当に返事をして特に気にする事も無く通学路を歩く。…ふと、違和感。新羅の隣には大抵低血圧でクソ不機嫌な顔をした彼奴が居る筈だが今日は其の姿が無い。

「……シズちゃんは?」

何故か半歩後ろを着いて歩く新羅に、些程気にしていない素振りで尋ねる。

「さぁ?迎えに行った時はもう家出た後みたいでさ、」

大袈裟に肩を竦める姿を適当に視界の隅に追い遣り平和島静雄が自宅を普段より早く後にした理由を考えてみる。…つか此奴毎朝シズちゃんの家迄行ってるのかよ。

(呼び出し…は応じなさそうだし、補習…は朝遣らないか…)

今一有力な考えが浮かばないがまぁ学校に行けば逢えるだろ、と思考放棄、校門を潜る。
ふと見上げた屋上に、ぼんやりと人影。

「………あれ、」

結局ずっと半歩後ろに居た新羅の不思議そうな声を無視して校舎の中、一気に階段を駆け上がり屋上に繋がる重い扉を押した。

「……ッ、…何だよ、手前か。」

一瞬驚いた顔で此方を見るシズちゃんとばっちり目が合ってしまう。
扉に凭れて呼吸を整えて居るとシズちゃんはふらり覚束無い足取りでフェンスの下に座り込む。

「朝っぱらから何してんの、」

近寄って、屈み込む。ふわふわした金髪の隙間から見える瞳は少しだけ充血して、其の周りは思い切り擦ったと言わんばかりに真っ赤になっていた。

「ッ、見んなよ、」

「…なーに、如何したの。ほらほらおにーさんに言ってみなよ。」

「同い年だろ。」

「俺のが誕生日早いし。」

「餓鬼かよ。」

「シズちゃんがね。」

「………猫がよ、」

不毛な遣り取りをブッた切って、よくよく聞いてみれば泣いていた理由は「世話をしていた猫が死んだ」から、らしい。

(不謹慎だけど、)
可愛い所有るよな、なんて。

「幽が見付けて来て…家じゃ飼えねぇからって近所の公園に段ボールと毛布持ってって餌遣ってたんだけどよ、」

「元々結構歳取ってたみてぇで、…んで、昨日寒かっただろ?朝見に行ったらもう、」

「幽の前で泣いたら格好悪ィだろ、帰ってから一緒に墓作るって言ったから…其ン時泣かねぇように、」

また泣き出してしまったシズちゃんに苦笑しながら頭を撫でて遣る。
(……変な図。)
思いながらも、からかう台詞なんて出て来なくて。スピーカーから聞こえる割れた予鈴の音は無視する事にした。






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