小分けにしたフードを置けば、待っていましたと言わんばかりにポケモン達が集まってきた。
右からヤブクロン、隣はギアルでその隣にはヒトモシが居る。その隣には揺らめくシャンデラの姿。しかし出されたフードには手を着けず、一生懸命食べるヒトモシの姿を眺めるだけ。
眺めていたノボリは、小さなフードを一つ摘みシャンデラへと差し出すもチラリと見るだけでそれ以上のリアクションはない。
「やっぱり変わらないか」
しゃがみ込む自身の隣へと誰かが座り込む。
ドサッと重い荷物の様な音をたてるが、姿形からしてそれは明らかな人であった。サブウェイトレーナーの山男繋がりで知り合った青年、ポケモンブリーダーのマンゾウだ。
ポケモンバトルで立ち回れないノボリの悩みを聞いた山男のゲンゴロウは、同じサブウェイトレーナー兼ポケモンブリーダーのマンゾウを紹介。
ブリーダーの職についている事もある為、他のトレーナーよりもポケモンの知識は豊富だ。
一匹一匹にあったポケモンフードを選び組み合わせ、体の大きさにあった食事量等を学び同時に、自身のパートナー達の個性や特徴を把握する。
そしてバトルへといかそうと言う考えだ。
彼のおかげで自身の知らないパートナー達の一面を知れた。これをどうやってバトルに生かすかはノボリ自身の課題。
さて、そんな彼でも頭を抱える事が一つあった。
ノボリのポケモンシャンデラ。
ヒトモシを世話すると決めたその日に付いて来たポケモンだ。ヒトモシをヤケに気にかけている事からして、もしかしたらヒトモシの親かも知れないとジンから聞いていた。実際の所ははっきりしていない為、シャンデラの子とは決まった訳ではないが様子からみてそうだろうと推測はできる。
そのシャンデラだが、ノボリの言うことを聞く事が無かった。
シャンデラ自身のレベルが高いと言う事も有るだろうが、ブラッシング所かポケモンフードすら食べない日もある。
意地になっている。と言う訳ではなく、プライドか何かがシャンデラをそうさせているのではないか?とブリーダーのマンゾウは答えた。
いくら意地とは言え流石にフード位は食べるだろうが、シャンデラにはそう言った素振りは見ない。
ただ偏にヒトモシの事を気にかけていた。
ポケモンバトルの練習としてヒトモシを出せば、勝手にボールから飛び出るシャンデラ。バトルこそに乱入はしないが、指示を出すノボリの後ろでただただジッとヒトモシを見つめる。
バトル終了後は直ぐさヒトモシの元へと飛んでは、その小さな身体を抱きかかえ子供の様にあやす。
シャンデラの意図を読めず、扱いに困っていた。
「シャンデラは昨日の晩御飯食べたかい?」
「うん、お…俺の見てない、所で……」
決してノボリの前ではフードに手は伸ばさない。
ノボリが目を離した隙にいくらかは食べているらしいも、その量はあまり多いものでもない。
定期的な健康診断で異常は見当たらないが、やはり気になってしまう。
バトルには出たない為シャンデラの技の火力を頼る事はないが、いざという時に今までの積み重なった疲労により倒れないか心配である。
流石のブリーダーでも対処の仕様が無かった。
今のシャンデラの様子からは異常は見られない。現時点では問題はない。しかしーー
「君のシャンデラ」
「?」
「ちょっと危険かも知れないね」
危険?
小さく聞き返すノボリに、彼は地べたへと座り直し、そそ!と頷く。
「私が言っているのはシャンデラの体調の事ではないんだ。ヒトモシに対する依存性が危険だと言う事」
胡座の上に肘をかけ、自身に合ったフードを食べるポケモン達の幸せな姿を眺める。時折、隣に並ぶポケモンのフードを気にかけ、食べてみたいと言う仕草が可愛らしい。
「人に懐く懐かない以前の問題かも知れない」
「シャンデラが、ですか?」
「うん。人に見向きしない所か、ヒトモシにしか視線が行っていない。これが単なる愛情ならば良いが、ノボリ君の話しや今までの行動パターンをみる限り異常な程にヒトモシへ依存しているのが分かる」
マンゾウの言っている言葉に少年は理解出来なかった。
人にも有るようにポケモンにも心はあり、同じ種族同士に向ける愛情は当たり前の事だ。
「愛情をかける行為に対して言ってるんじゃ無いんだ。愛情をかける行為により、周囲に対する無関心の度合いが問題になるんだ」
愛情自体は問題ない。しかし、それが周囲へと被害を及ぼす可能性がある。
この依存っぷりは危険かもしれない。
周りの存在に対し無関心度合いが深まる程、愛情をかけていた対象を失った瞬間牙を向く。
ヒトモシの仲間であるヤブクロンやギアルだけではない。勿論トレーナーであるノボリも含まれている。
一種のパニック状態となり手当たり次第に手を出し、暴れ自身が依存している対象が見つからない限らそれは続き、自身を取り巻く物全てに敵意を向け力の限り暴れるのが目に見えている。
それはヒトモシが傷つけられた場合にも、同様に発生するだろう。
同時にそれらの行為によって、自身の命すら危険に晒す可能性も無くもない。
マンゾウが心配しているのはそこだ。
いくらノボリが全てのジムバッチを保有し命令をきかせた所で、ヒトモシに対する依存がなくなる訳ではない。
「どうすればシャンデラはこっちを向くでしょうか?」
「ノボリ君のやり方次第だね」
きっと私には振り向く事はないよ。
シャンデラのトレーナーである君なら、まだまだ可能性はある筈だ。
「焦らずゆっくり!な」にっかりと笑うマンゾウに、コクリと頷くノボリ。
隣に座り込むトレーナーからポケモン達へと視線が向かう。
フードを食べ終わったであろう3匹が、空の器を持ってそれぞれ遊び始めていた。シャンデラは相変わらずヒトモシだけを眺め、それ以上の行動に出ることはない。
小さくため息がノボリの口からこぼれる。
ヤブクロン、ギアルそしてヒトモシは今日も元気なようだ。
了
141011
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