Wアンカー 運休編 | ナノ



イッシュ地方では有名なとある博物館。
遥か昔、人が生まれる前に存在していたポケモン達。しかし、生きている姿ではなくいまや化石と呼ばれる亡骸で、鳴くこともなく透明な展示ケースへと横たわっていた。
場所はシッポウ博物館。年中無休で学者を目指す者や、レポート提出の為に頑張る学生の事を考え朝早くから夜遅くまで開いている博物館だ。入場料は無料。図書館も兼ねている為人で混み合う博物館である。
今日も相変わらず人で賑わう博物館。受付嬢は慌ただしく接客へと励む姿が見て取れる。


「こんにちは!」


丁度電話のコキを置いた所だった。弾み有る元気な声は明らかに子供のもので、彼女は無意識にこんにちはと答える。が、見上げた先には誰もいない。
いつものカウンターがそこにあり、誰も居やしない。もしかして、空耳かと自身の仕事へと戻ろうとした時だ。

「お姉さん!」

カウンターを覗き込む小さな頭に気が付いた。帽子を被っているらしく、顔を見ることはできないもののぴょんぴょんと跳ねては存在を主張する子供に内心ほっこりしてしまう。

「あらあら、ごめんなさい坊や」

カウンターから少し身を乗り出せば、其処に居たのは一人の少年。やっと自分の存在に気が付いてくれた事が嬉しいのか、少年はにっこりと笑みを浮かべた。

「お姉さん!化石のビデオを上映してるブースどこ?」

少年が手に持つのは束になったパンフレット。確か博物館の公式サイトで広告している記事だった覚えがある。わざわざ印刷して持ってきていると言う事は、どうしてもみたいのだと見て取れる。

「この通路を真っ直ぐ行き、突き当たりを左、右の順で行った先だよ。」

ついでにそこのブースにしかない無料パンフレット。貰って行くといいよ。
小さく教えてみれば、本当!と輝きだした少年に、彼女はクスクス笑う。
この少年は本当に化石が好きなんだな。と暖かい気持ちを抱きつつ、早足で博物館の中を進んでいく背中を見送った。
が、図書館と化石展示ブースの別れ道。その真ん中で、少年の足が止まり彼女は疑問符を浮かべる。

どうしたのだろうか?

もしかして他に興味が出る物でも見つけたのか?と、気になった彼女は、少年が足を止め見つめる先をゆっくりと辿っていく。

白衣を着た従業員とコートを羽織る、線の細い男性の後ろ姿。あの二人を知っているのか?しかし、少年は微動だにしない。と、少年が見つめていた二人がとある扉を開け、奥へと入っていくのが見えた。
閉ざされた扉にはスタッフルームと書かれている。ならば、コートを羽織る彼は、関係者或いはあの従業員の知り合い何だろう。シッポウ博物館内で白衣を着る従業員は、化石復元チームだけ。其処で彼女はピンと来た、彼は復元チームに化石復旧を依頼したトレーナーなのだと。もしもの事を考え、並大抵のトレーナーに復元されたポケモンを渡す事はない。一定条件をクリアした実力あるトレーナーでは無いと、復元チームの従業員もとい研究者達は譲りはしない。
では、隣を歩いていたあの人物はきっとトレーナーで……


「あ!」

忘れていた、あの少年の事を。彼女はすぐさま立ち止まっていた少年を見やるも、其処に居たはずの存在は見当たらない。もしかすると例のブースへと向かったのではないか…?と、思うものの二人が消えていった扉が小さく開く。

嘘でしょ!

彼女は見てしまった。少年があの扉をくぐり抜けていく瞬間を。あの先は従業員のみの部屋。一般人が入る事は許されない。
急いで奥にいる研究者へと連絡し、あの少年を……
慌ただしく受付の電話を取った瞬間である。

「お聞きしたいのですが、ポケモン復元チーム研究者は居られますか?」


スーツを身にまとう男達が、にこやかに笑っていた。







「ジンさんが復元ご希望のポケモンですが無事成功致しました。しかし、特性の関係上か人間を酷く怖がり、空間内に一人以上の人が居る場合酷く暴れます」

『ポケモン同伴はどうだ』

「そこはまだなんとも。今分かっているのは外を酷く嫌い、人に慣れていない状態です。年代的に考えて卵から孵化した直後のようです。つまり赤ん坊状態のまま」

手元にある資料を次々とのべていく研究者に、ジンは頭が痛くなった。ある石マニアから譲ってもらった化石。その中のうちの一つを復元するよう依頼していた。
他の化石と比べやけに小さなサイズだった事は覚えているが、まさか赤ん坊だったとは予想外である。

「バトルメンバーに加える予定ですか?」


メガネ越しに此方を伺っているのが分かる。
何か問題でも?
聞き返せば彼は静かに立ち止まり、胸ポケットからカードキーを取り出した。


「今回復元したポケモンですが、免疫系が低く体調を崩しやすいようです。無理なポケモンバトルはさせないようにお願いします」

『他の化石はどうだ?』

「残念ながら復元は出来ません。詳細なデータを引き出す事ができませんでした。引き出せたとしてもせいぜい細胞データ位、皮膚や他の遺伝子データが不足しており不可能です」

このポケモンを他のポケモンでカバーする事をオススメします。カードキーを端末へと通せば、目の前で閉ざされていた扉が開く。
きれいに整頓されたファイル、浮かび上がる液晶パネル。その中心には小さめなカプセルが置かれ、中には一体のポケモンが横たわっている。

「注意して頂きたいのは、このポケモンに大きな音はNGです。パニックで暴れて、周りのもの壊す所か爪と嘴で人間を傷つける場合があります。あと、免疫力が低い為、食事に栄養剤と健康管理をしっかりして下さい」

最後にバトルですが、この子の場合傷口が……

刹那、ブザーが鳴り響いた。
鼓膜を揺るがす警報機は、二人の居る室内へと響き渡る。
訓練か?静かに呟いたジンだが、隣に居た彼は慌てて壁の端末へと駆け寄る。何かを打ち込めば、パネルが浮かぶ。
博物館内の廊下だろうか?どこの廊下かは分からないものの、その廊下を走り抜ける影を捉える。

スーツを着込んだ人だ。

途端に白衣を着る彼は慌てて此方へと振り返る。


「ジンさん!急いで逃げて下さい!」

『説明しろ』

「復元ブース内への侵入者です!恐らく、化石や復元したポケモンを狙った犯罪者かと!」

資料展示だけではなく、同時に化石の調査及び復元研究をしているシッポウ博物館。表の資料ではなく、裏にやってきたと言う事は目的はただ一つしかない。


『犯罪者ねぇ……』

目を細めパネルに映る犯罪者を見つめる。すると、ジンはすぐさま廊下へ。
その姿を見ていた研究者が慌てて後を追いかけた。


「ジンさん!避難してください!今警報機が警察へと連絡している筈で…』

『直ぐに来るわけ無いだろう』


イライラしたようにブーツを鳴らしたジンは邪魔をしやがって。と小さく吐き捨てる。
唇から覗かれる犬歯に背筋がひんやりとした。まさか、彼があの犯罪者達を捕まえるつもりなのだろうか?
いくらジンがギアステーションで運営しているバトルサブウェイの頭とは言え相手は複数だ。数からみて圧倒的に不利だ。


「ダメですジンさん!非常口から逃げますよ!」

目の前を進むジンの腕を掴む。隻眼が彼を睨みつけるが、今は怯んでいる場合ではない。
確かなポケモン達の化石は大切だ。もしかしたら彼らの目的が化石のデータ或いは復元されたポケモンかも知れない。

ならば、此方も彼らを守るべくそれ相応の対応を…と思うも、相手は犯罪者。一般人の思考と異なる。いつどんな手を使ってくるかも分からなければ、命の保証もない。

安全を優先するしかないのだ。


『おい!』

「急いで下さい!早く向こうの建物に移動しないと!」


どこにそんな力があるのだろうか、ジンの腕を掴んでは強引に反対側の廊下へと向かう研究者。
力ずくにでも、と振り払おうとした時である。
見飽きた色合いの中一際目立つ何かが、観葉植物の隙間からこぼれ落ちていた。

ジンは自身を引っ張る研究者の腕を振り払った。
よろける体をなんとか保った彼は、ジンさん!と名を呼ぶ。と、其処で彼もある異変に気づく。

え?

と、目を見開いたと同時にジンは、廊下に飾っていた観葉植物の鉢を蹴り倒した。
豪快に荒々しく。倒れた植物が音を上げる。同時にその背後にいた何か揺れ、ジンの眉間にシワがよった。




『なんで、てめーが此処にいる?』


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