「ご希望通りの奴を一つ入れといた。同時に防水性と衝撃の中和を強化。以前より強度を強める為に今まで入れていた非鉄金属を減らし、希望だった耐熱性のある素材と衝撃吸収用のやつをいくつか…あぁ、あと、お前アレルギーがなかっただろ?だからジョウトから取り寄せていた不飽和ポリエステル樹肥を使わせてもらった。金属ばかりだと重いだろうから、一部発砲プラスチックを代用したから。だからといって強度が下がった訳じゃないから安心しろよ?剛性は前のものより数倍高くしてある。皮膚の光沢部分も以前と異なる。
前まで使っていたやつは、コーティングされていない義手そのままだったが、今回はそれを取り入れた。遠目ぱっと見ただの腕だが、近寄れば光を反射させるテカリが生まれるから、人前ではあまり晒さないように……って、お前聞いているのか」
目の前に座るそれへと声をかけた。
チラリと此方をみたジンだが、再び視線を手元へと下ろし、ああ。と小さく答えた。
待ち望んだジンの義手。小言を携えてやってきたのは、ジンの義手を作った若い男だった。
海外であるイッシュ地方。足とて重宝されるギアステーションに来いとだけしか聞いていない彼は、こんな人混みの中で本当に見つけられるのかと不安だった。が、その不安は直ぐに打ち消される。
集合場所はギアステーション。たったそれだけで、地下へと続く階段を降りたと同時だ。自身の名を呼ばれ、振り返れば一人の駅員がにっこりと笑う。
「ギアステーションにようこそ」
そしてお待ちしておりましたと一礼する駅員に頭は混乱するしかない。お待ちしておりました?
自身はジンとの集合場所へと来ただけだ。他の誰かを待たせている訳でも無ければ、約束した覚えもない。
が、そこでふと思い出す。
ライモンシティのギアステーションに行け。すぐに向かえが……。
もしかして、ジンの向かえっすか?
そういって遣れば、駅員ははい!と間をあけること無く答えた。ジンさんがあなたを待っています。ご案内しますね。
案内。その意味をやっと理解したと同時に、ジンが一体なんの職についているのかも分かった。
確かにこの役職では、安易に地方へといけない。
まさか、駅の駅長をしているとは思わなかった。代理とは言え、いまのトップはジン只一人。詳しく話しを聞けば、トラブルに巻き込まれて義手が壊れたとか……
「お前、本当はトラブルメーカーじゃないだろうな?」
『……………』
無言。しかし、いきなり机を蹴り上げた為、乗っていた部品がガゴン!と騒がしい音をあげる。
大切な部品が痛む!彼は直ぐさま飛び跳ねた部品へと目を通し、どこか痛んでいないかとチェックに入った。
「お前な!少しはその足癖の悪さ直したらどうだ!」
『てめーが余計な事を言わなければいいだけだろうに』
「相変わらず人使いが荒い!まだそんな言葉使いして…もうお前の義手直してやらないぞ!」
『そうなれば、この義手の原型なくなるまで粉々に……』
「すまん俺が悪かった。だから義手だけは傷つけないでくれ」
自身の弱みを上手い具合に掴まれている。逆らえない。そう悟った彼は直ぐ様身を引けば、興味がなくなったかの様に再び義手へと集中した。
五年ぶりの再会は、驚愕と困惑でいっぱいだった。
最後にみたジンと、いまのジンが360度違っていた為である。変貌し過ぎたと、金髪の彼は頭を抱えた。
最後にみた時は、義手の手入れだと訪れた5年前。一時期悪い噂がたったものの、所詮噂だと薄れていった。
ふと気づく。いつもジンの傍らに立っているあのポケモンが居ない。まるで保護者かのようにべったりと張り付き、此方を睨み付ける鋭い視線はいまでも忘れられない。義手ならまだしも、それ以外の場所を掠めた程度であれば激怒し拳をふるった。その度にパートナーのエレキブルが間に入りと……
「お前、いつも連れてる奴はどうした?」
『いつも?』
「お前からべったり離れない、保護者様だよ」
とうとうジンが手放したか?
保護者のようにあれやこれやと、手を出してきた奴だ。ジンが呆れ見放し手放したかと思ったが、目の前に座るソイツは目を細め俺を視界へと捉える。
『此処にいる』
一つのボールが部品で埋め尽くされる机の上へとのる。
数回程転がったボールは、ピタリと止まり只静かに其処に留まる。ひび割れが目立つもののまだまだ使えるボール。普段バトルステージでは見ない、珍しいデザインをしたボール内に居るのはポケモン。ボール越しに揺らめく炎は変わらない。チラリと一瞬此方を見たかと思えば、ソイツは直ぐ様背を向けジンを見上げた。動くこと無く、只じっとジンを見つめる。こいつの執着は相変わらずらしい。外に出ようと出まいと、ジンから視線を逸らす気配は無い。
『ステーション内の規約上、彼を出すことが出来ない。そのためいまはボールの中だ』
彼、…ね。
手持ちも手持ちだが、ジンも同様。何故かこいつだけを彼と呼ぶ疑問は未だに解決しない。オーバだって同じポケモンを持っているが、決して彼とは呼ばない。否、ポケモンに対して"彼"と呼ぶトレーナーは極僅かだろう。
互いに依存している所は、むかしと変わらないとみえる。
用は済んだろ。まるでそう言うかの雰囲気を醸し出しジン。直ぐ様ボールを元の場所へと戻すなり、深い息を吐いた。
『これでやっと、トレインが運行出来る』
トレインだげじゃない、人前へと出ていける。
そうなれば、溜まりにたまった仕事がやっと片付くと吐いた。
「しかし、聞けばお前は骨折してる。と話しだが…」
『義手を隠す為にとっさに言ったんだ。しかし、直ぐに治る訳が無いからな』
しばらく、怪我人のふりをしギプスでもはめとくか。その台詞に、昔のジンの姿が脳裏を掠めた。そして、同時に同時のジンの顔も浮かび、小さく吹き出してしまう。
何だ…?
イラついたジンが眉間にシワを寄せる。
「いや、初めて作った義手を壊した時のお前を思い出してな」
まだまだ自身の腕も未熟だった為、いきなり現れたソイツに義手を作って欲しいと言われた時はかなり驚いた。しかし見ず知らずのトレーナーに構って遣るほど、当時の俺は余裕がなかった為ある条件をジンへと持ちかける。
それを直ぐ様クリアし、戻ってきた日には呆れた。
約束は約束だ。作った事の無い義手。試行錯誤してやっと出来上がったそれを、その時小さかったこいつはたいそう喜んだもんだ。が、所詮機械に少し詳しく程度の知識。数週間後、ギプスをしたこいつが再びやってきた。他人の目を気にしてか、大きなギプスをはめるが中身はカラ。
義手が壊れたと、ぐずり肩を揺らす当時のジンは本当にかわいらしかったものの………
「何故、ぐれたし」
『お前、さっきから話しがかみ合わないぞ』
さっきから何を言ってんだこいつ。的な目で俺を見るジン。昔のジンを知るトレーナーが、いまのこいつを見れば人違いだと叫ぶに違いない。それくらいこいつは変わった。
「いや…、いまのお前が昔と変わり過ぎてな…昔が懐かしすぎて涙が出る」
『思い出に縋る程心折れているジムリーダーなんざ見たくもねぇな』
「お前を見て折れかけてるんだよ。あの頃の可愛らしいお前はどこにいった?」
『テンガン山に置いてきた』
「ちょっとテンガン山行って取ってくるから、待っていろよ?」
『ああ、お前が改造しまくったジムを解体しながら待っていてやる』
「やめろよ!せっかくいまいいところ迄作業してるってのに」
『お前、いい加減改造を自重しないとナギサの住民から、ジムリーダー本部館へクレームが入ってだな…………』
了
130215