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激しく降り続ける雨と共にうなるのは暴風。
四方八方へと予測不可能な流れは地に足を張る存在すべてを狂わせる。
同様に地に根を張る存在が息できない半透明な水すらも狂わせ、予測不可能な流れにあらがうように必死にもがく事しかできない存在も居る。
海へと下る大きな川。これに名は無い。ならば特徴を記せと言われれば、ライモンシティとホドモエを遮る大河と言うべきか?
大きな山から流れてくるこの川は、海へと通じている為か下流へと向かうに連れて深く大きなものへと成り変わる。
同様に川にしか生息しないポケモンは、海へと向かうにつれその姿を消し逆に海にしか生息しないポケモンが姿を現す。
しかしポケモンとは実に不思議なもので、中には海、山、湖関係なく何処にも生息するものも居る。
それらは集団行動するのがメインであり、単体では決して動く事はしない。
その方がいざ天敵に遭遇した際に拡散しやすく、同様に集まった事により規模が大きくなった存在は単体では狙われにくい。
リーダーは居らず一匹が気紛れで動けば釣られるように他のポケモンも動き回る。
不規則な動きは相手を翻弄する。
だが、逆に暴風雨による天候には逆に彼等は翻弄される。荒れれば荒れる度に彼等も慌てふためく。大きな群れは右へ左へと動き回り、体が仲間に当たろう構わない。逃げ惑い安全な場所を求め大群で移動する。しかし、何処が安全なのかは分からない。
ただひたすら静かな場所を求め泳ぎ回る。何処へ向かう?右か?左か?あっちか?こっちか?
迷い迷い、仲間で有ろうと優先されるのは己の本能。仲間とぶつかり合い戸惑う中へ投げ込まれたのは鉄骨。
この豪雨で流されてきたのだろう。本来ならば沈む筈の大きな鉄骨はグルリグルリと孤を描き、バスラオの群の中へと飛び込んで来た。
どう回るのか予測できない鉄骨は流れに身を任せながら、戸惑うバスラオ達へと叩きつける。
腹、頭、鰭とコントロール出来ない鉄骨が容赦なく叩き付け、中には当たりどころが悪く気絶するバスラオも居る。

大混乱から成り代わった世界は混沌となり、まさに阿鼻叫喚。
どうする事も出来ないポケモン達は逃げ惑うしか無い。

そんな時だった。
意志の無い鉄骨が水中の中でグルリと回った瞬間だ。
ゴリ!となんとも言えない鈍い音が生まれ、流れる激流の中へと飲み込まれる。

何だ?

疑問を浮かべたと同時に、新たな流れがバスラオ達を襲う。

まるで吸い寄せられるかの様にグン!と生まれた衝撃は、バスラオの体を何も言わずに引き寄せる。
抗えない新たな流れは次々とバスラオを黒い空間へと飲み込み、勢いが止まる気配が無い。
大変だ!大変だ!と慌てふためく他のポケモンすらも飲み込む空間を、誰も止める事は出来なかった。


* * *

<<現在、大雨により一部路線にて雨漏りが発覚。只今応急処置をしている為、一部ダイヤ変更となっております。大変申し訳御座いませんが、一部ダイヤのご確認と共に……>>


びしょびしょに濡れた床は滑りやすく、とても転びやすい。
危ないと慎重に歩く中で、早く家につきたいと足を早める人々で地下鉄内は混み合っていた。
右に左にと流れの把握出来ない。同時に上がるのは一部ダイヤ変更時の内容による会話。
カナワへ向かう電車の本数が減った。環状線は何番ホームから乗れるか?
セッカ行きの電車が完全に止まった。なら、臨時で出ているバスで向かった方が早いと様々な言葉が交わされる。
同時に廃人トレーナー達の言葉も交わされる。
ジンが不在な為、勝ち進んだ先での駅長代理とのバトルが出来ないとの事。バトル自体は受け付けしている為、ジンの居る車両まで勝ち進んだ場合は次回ジンが戻ってきた時にすぐバトルが出来る様に手配をしてくれるとの事らしい。しかし、それでも今この瞬間の興奮を抱いている時にバトルが出来ないと聞くと、何となく萎えてしまうもの。故にバトルトレインに乗車するトレーナーは、普段の半分以下。トレインに乗ることを諦めたトレーナーはそそくさと帰る準備をしていく。

様々な事情が広がる地下鉄で、別のトラブルが起きていた。

それは走行中のトレインでの線路トラブル。何処からか漏れ出した雨漏りにより、一部の路線が水浸しになると言う被害が出ていた。路線全てが浸かっている訳ではなく本当に一部水浸しである。それくらいならと思う所が有るが、トレインには人が乗っておりたくさんの乗客員の命を預かって居る。万が一の事を考えれば当たり前な事。無事に送るために小さな出来事ですら慎重にしなければならない。
その為には走行中のトレインを急停車させ、乗客員を移動させる。
先導するのは駅員。
乗客一人一人が離れない様に、慎重且つ迅速に暗い線路内を進んでいた。
時折天井からこぼれ落ちる雫に当たった乗客達は、これらが原因か?ここは大丈夫だろうかと不安な声をあげる。
まだ足元はしっかりしており、水に浸かっていない所を見ると此処の線路内は大丈夫らしい。
しかし、時折遠くから聞こえる唸るような鈍い音が線路内を歩く乗客の不安を煽る。
それが一体何なのか分からない為、ポケモンにしがみつくトレーナーの姿も見て取れる。

安全面を考慮し、一旦近くのホームへと戻る。

トレインに乗っていた乗客はこれには静かに頷き、駅員の指示に従っていた。今外で吹き荒れる豪雨を見て感じてきたばかりなのだ。
仕方ないとしか言いようが無い。


「クラウド、向こうの様子はどうだ?」

「おぅ。やっぱり戻って正解やったみたいや」


フラッシュを放つサンダースを従えたクラウドが、線路内を移動する乗客の誘導をしていたトトメスと合流。
トトメスの傍らに控えるレアコイルも同様にフラッシュを放ち、その箇所がやけに眩しく感じる。
そんな中、移動する乗客達から見えないように背を向け小さな端末から表示される映像に、クラウドは顔をしかめてみせた。

「あぁ、ここや。ここ。この先を見てきたが、2つ先のホームまで水が浸かってたんや」

おさめたのは水に浸かった線路内の写真。浮かび上がる小さな写真を指先でスライドしていけば、次から次へと新たな映像へと切り替わってゆく。
サンダースのフラッシュを光変わりにした線路内は、光を反射した水面がキラキラと静かに輝いている。
一方でトレインが走る長い線路は完全に浸かっており、走行するのは難しいと見える。

「防火シャッターのおかげで、ある程度の嵩の水やったら大丈夫みたいや」

火災や災害などで一時避難用に造られた防火シャッターは厚く、同時に高さもある為他の線路へと水が入らない様にいち早く閉めたシャッターのおかげで、此方へと拡大せずに済んだらしい。
逆に間に合わなかっただろう線路内には水が浸かっていても可笑しくない。
全ての線路を確認しては居ない為、どれくらい浸かって居るかは分かりはしない。しかし、酷い所ではきっとトレーナーの腰元まで浸かって居る場所があってもおかしくは無い。
隣のホームへと被害が拡大しない様に、今は防火シャッターが防いでいるかも知れない。が、これらの水抜きをしなくてはならないと考えると頭が痛い。

仕事が増えると互いに頭を抱える中、投げ込まれたのはインカム越しからの報告。

トレインに乗っていた乗客達が、線路内に設けている非難通路を無事に通り終えたと言う内容。
その様子を捉えた写真の一部がクラウドが持つ端末へと送信され、何も告げず表示される。

トレインに乗っていた人達全員の人数は一致し、怪我人も居ないとノイズ混じりのインカムが告げた。


「トレインの点検を急いで済ませ、ワイらも戻るか」

「そうだな」


黒を占める空間の中で空っぽになったトレインが、まるで置いていくのか?と寂しそうに照らすライトが眩しい。



「………こんな時に」

「?」


駅長代理が居たら、どう指揮するだろうか?
囁く程度にしか聞こえない様な薄れた台詞は、前を歩くクラウドへとは届いて居なかったらしい。

なんや?と振り返って来た彼に、何でもないと返したトトメスは後を追う。

再び鳴り響いたのは、唸るような鈍い音。







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