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地下鉄とは言え、そこは一瞬の密閉された空間。地上へと上がる通路を使わない限り、どこまでも続くこのトンネル内から抜け出す事はできない。
密閉され且つ反響しやすい空間に居るジンは、煌めくピアスを纏うその耳で"何か"を拾った。反響する様に響いたそれはビリビリと空気を震わせ、同時にその場一帯の温度と湿度を上昇させる。
ジンはエテボースの胴体へと腕を伸ばすや否や、振り返る事せずに横の線路へと素早く転がった。同時にポワルンへと『まもる!』と指示を出したのは正解だったと思ったのはこの戦闘が終わった数十分後の話なのは知らない。

ジンとエテボースが横へと移動したと同時に、背後から淀んだ色を纏った炎の塊が轟音をあげ横切って行くのが分かった。
自身達が避けれてももう一匹が回避出来ないと判断したのか、まもるを指示していたポワルンは瞬時に自身をベールで包み込む。
ベールに守られたポワルンを避けるように四方へと拡散した炎だったが、その後ろに対峙していたポケモンへと当たる物のまるで何も無かったかのように渦を描き吸い込まれていくのが見えた。


ガン!と体の至る所に当たった線路の冷たい鉄がジンの体を痛める。
ギシリと悲鳴の上がる体は線路の脇に敷き詰められていた砂利の上へと転がり、弾け飛ばされた石の礫達が数回転がる。

エテボースが手放してしまった電灯が明後日の方向へと向き、ポワルンの位置が掴めなくなる。
線路に打ちつけた箇所が手当てしろと信号を容赦なく脳へと送るのが分かる。しかし右手を支えにし砂利の上で上半身のみ起きあがらせれば、すかさず空いた左手を自身の後ろへと回す。

『いやなおと!』


腕に抱えられていたエテボースが飛び上がり、左手が回された方向へと縫われた笑みが円状へと描き変わる。

バタバタと慌ただしく震えた二本の尾と共に、歪んだエテボースの口から耳を塞ぎたくなる様な音が発せられる。

一度生まれた大きな不愉快な音は、筒状に伸びるトンネル内を四方八方へと散り散りに飛び広がる。
同時音を吸い込む事なく逆に騒音を相手へと跳ね返したいやなおとは、ゴムボールの如くその空間を飛び跳ねバウンドしてはまた跳ねるを繰り返した。
勿論それはエテボースのいやなおとを浴びた相手と共に、すぐそばに居たジンへと帰ってくる。

キンと痛みと共に鼓膜を一瞬だけ使用不可能とさせた耳なりはすぐに消え、チラリと視界に捉えた暗闇に反して揺らめく炎。
ポワルンの姿は見えず、懐中電灯は未だに転がったままである。

ジンはすぐさま立ち上がり砂利を踏みしめる。線路を軽く飛び越えザッザッ!と砂利の上を走る。すると、エテボースと対峙していた炎が動いた。
炎は左右に揺れた瞬間に転がる懐中電灯目掛け、黒を帯びた玉を発射。ジンが拾い上げるよりも確実に早く当たってしまうそれは、間に入ってきたエテボースに触れるなり消滅する。

まるで驚いたように一瞬歪んだ炎。その隙に駆け寄っていたジンが、転がる懐中電灯を左手ですくい上げてはポワルンが居るであろう方角へと光を向けた。だが、広い空間の中で小さなポワルンを見つけ出すのは難しく、一線に伸びる光がなかなかその姿を捉える事が出来ない。


『ポワルンもう一度ふるいたてる!エテボースわるだくみ!』

二匹へと下された命令。
指示を受けた二匹は各自それぞれ行動へと移す。その間にジンはインカムを数回叩いてやれば、少しだけノイズ音が引いた通信が再開される。


『他にポケモンは?』

《今…とこ……ザッは、見ザッ…たりまんザッ……ザッ……》


他の奇襲攻撃は無いらしい。一方通行であるトンネル内では四方から飛んでくる攻撃に対して警戒する必要は無い。だが、挟まれている事に変わりはない為これを打破すべき戦略を考えなければならない。

持っている電灯を黒に浮かぶ炎目掛けて当てるも、距離が離れているらしく光が届かず途中で途切れてしまう。

いったいどんなポケモンなのか?何百種類も存在する炎ポケモンの中から対立する一体或いは二体のポケモンを特定し、手を打たねばならない。
しかし、相手は暗闇に紛れ此方へと姿を見せず、確実にジンを狙ってきている。持っている電灯が相手に居場所を知らせている様なものだが、これが無ければ暗いトンネル内を上手く動けない。

懐中電灯を持っていない片手で、制帽の鍔を掴む。

両サイド黒に覆われた中でのバトルは、暗闇に目が効かないトレーナーとポケモン共々長引かせると危険だ。どちらかを開通させれば残ったもう片方も直ぐに対処出来るだろう。今までの相手の攻撃パターンを思い返す。ポワルンを襲った相手の攻撃、エテボースへと当たった技の種類。
その中から一番に手を打ちやすい相手となれば…………


『エテボース、行け!』


背中を押し出すようにエテボースへと指示を飛ばせば、弾くかの勢いで二本の尾を揺らし一気に線路上を走り出した。
姿を見失わない様に持っている電灯で背を捉えれば、エテボースと対立する炎ポケモンが動いたのが見えた。

しかし、ジンはエテボースへと指示は飛ばさずに、ポワルン!ともう一体の手持ちの名を呼ぶ。

『ウェザーボール!』


背中越しにポワルンの鳴き声が上がる。
ウェザーボールを放つ為に、後方の空気が一気に冷たくなったのが肌で感じられる。
なるほど、今地上の天気は『霰』に近い『雪』か……。ノーマルタイプから一気に氷タイプへと切り替わったウェザーボールに、今のうちだと思考をエテボースへと移した。

タンタン!と線路上をかけるエテボースに、相手のポケモンは纏う炎の量を先ほどよりも増幅させる。体に纏わりついた浮遊する幾つものの炎の玉を目にしたエテボースが、チラリとジンへと視線を向ける。
エテボースと目が合ったジンだが、瞬き一回しただけで手持ちのポケモンから視線を外し相手の姿を再び捉える。

何も指示が飛んでこないジンにエテボースは、再び真っ直ぐ相手へと突っ込んでゆく。

「    !」


暗闇の中で聞いた事のあるポケモンの鳴き声を、インカムを付けていない方耳が拾う。
同時に纏っていた浮遊する炎がエテボースめがけ、勢い良く宙で跳ねた。
勿論そう易々と当たりに行くつもりはないエテボース。
フットワークの利く身軽さを利用し襲いかかってくる攻撃を右へ左へ、鮮やかに回避していく。

其処で相手のポケモンが不審な行動に出たのに気がつく。
頭上か或いは両手の平の中で轟々と渦巻く炎の塊が、その量を徐々に大きくしていくのが見える。ぐるぐると渦巻く炎の色は徐々にくすんでゆき、炎とは言える様なものでは無くなって来ていた。


『跳べ!エテボース!』







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