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『やはり、トレーナー産か………』


表示される技構成と能力を表すグラフに、制帽を外したジンは零した。向こう側が見える透明なパネルには、あるポケモンの詳細等が記載されている。
この辺りに生息していない特別なポケモンである。進化前ならば辛うじてある塔にて生息しているだろうが、最終進化体とも言えるそのポケモンにはある物が必要となる。
暗くドロドロとした雰囲気を醸し出す其処を人は洞窟と呼ぶ。その場所でしか手に入らないある物を求め、わざわざ他のポケモンの領域となるエリアへと足を運ぶ事なんて無いと言える位。

その必要な物を得て進化したその子の技構成などを見、ジンは確信する。
特殊アタッカーで重宝しこのバトルトレインでは対面する一匹だ。
貰い火に炎の体と言う二種類の特性は、対面する度に技を当てないまで判断付かない厄介な相手。その相手が自身の手元に居ると思うと不思議な物である。

今手元に居るパーティーの数は軽く20超えるジンは、これ以上自身の手持ち数を増やすわけにはいかない。手持ち数を増やせば増やす程、その分の世話をしなくてはならない。
故にジンの手持ちの中にイッシュ地方のポケモンは一匹たりとして居ない。
そのポケモンが手持ちに今有り、しかも野生ではなく元を辿ればトレーナー産。

野生ならば地道に自身で欲しい子を見極め、捕まえた瞬間が嬉しい。
他人から貰ったと、交換したのならば念願の子と共に居られる時間に喜びを抱く。
しかし、ジンの目の前で静かに浮遊するその子は既に成長しきっており、バトルを仕事とするジンには鍛えると言う事は出来ない。
技構成、体付きは既に完成している。
辛うじて相手がジンの指示通りに動くかも知れないが、バトルスタイルが決まって居り、バトルに出すパーティーは固定し決まっている。

バトルパーティーにこの子が入る隙間は無く、世話をするには人手が足りない。
バトルサブウェイ向けに育てられたのならば尚更、手放しただろうトレーナーのパーティー向けに構成されている。


『……………』


チラリとその子、シャンデラを瞳へと映し出すも、シャンデラ特有の妖艶めいた眼がジンに向けられる事は無い。明らかに不機嫌だと背を向け浮遊する相手は、分かりやすい態度でジンへの思いを現す。
懐かれる体質でもなければ、逆に嫌われる事をした駅長代理様である。懐かれる方が可笑しいのだ。

強引に捕獲したシャンデラ。
以前地下鉄の線路内をポケモンがうろついていると言う報告を受けたジンが捕まえたポケモン。
もう一匹いた小さな火を灯す子、きっとヒトモシだろうその子は隙を付かれ逃がしてしまった。
きっとこのシャンデラの子だろう。トレーナーが逃がした際に卵を持って来たのか、或いはまだ地下内に他のポケモンが居りその間に出来た可能性だってある。
早くあのヒトモシを見つけ回収しないと、トレイン事故が起きかねない。
どこに息を潜めているかわからない小さな火。未だに一カ所に留まっているかも知れないし、シャンデラを探して動き回って居る可能性もある。

以前遭遇した場所へと再び向かいたい。

しかし、ジンには駅長代理でしか出来ない事務の仕事がかせられている。しかもその仕事量は半端なく、休憩時間すらも作業しないと終わらない量。
同時に挑戦者との激しいバトルをし、バトルが長引けば長引く程事務の内容は先延ばしとなる。

徹夜だって何日も続ける事が当たり前。
そんなジンがヒトモシを捜索する時間なんて有りはしない。
時間が経ち日が過ぎる程にシャンデラの機嫌は悪くなる一方。ジンの目を盗んでは勝手にボールから出ては、駅長室から抜け出そうとする度にエテボースとポワルンが行く手を阻む。
暴れ駅長室内を何度荒らされた事か。

此処で考えたのは一向にジンに懐かないシャンデラを、他のトレーナーに預けると言う事も考えた。
しかし、このシャンデラは先に述べた通りボールから自力で出てくるポケモン。
預けた先で必ずトレーナーの元から逃げ出し、地下鉄へと飛び込むだろう。

それでは意味が無いのだ。


シャンデラから視線を外し自身が使っているデスクへと向ける。
見事な山を描く書類の山と、分厚いファイルが早く終わらせろと威圧感を与える。


『シャンデラ、私も早くあの子を探し出したい』

だが、今はその時間すらない。
少しの間、待っていてくれ。

そう告げたジンにシャンデラはこれと言ってリアクションを起こさない。
不機嫌なまま背を向け、苛つくように揺れた炎がパチリと存在を主張する。
そして何も言わずにゆらりと揺れたシャンデラは、自身を捕獲したボールへと向かい器用に開閉ボタンを押し込む。

カチリと鳴ったと同時にボール内から伸びた赤い一閃は、シャンデラの姿を捉え一拍し内部への飲み込む。

左右に揺れたボールは手乗りサイズへと縮小。いつでも持ち運び大丈夫だと告げるそれを、指先で摘み少し重くなったボールの感覚に目を瞑り感じ取る。


『すまない』



デスクの上に置かれている古びたポケギアが一台。
ノイズ音と共に流れてくるのは、ここ7日間の天気予報。季節の変わり目と言える為この7日間の間、激しい雷雨に見回れる様子。
地上では一部の道路を閉鎖するかも知れないと、イッシュ首都道路株式会社から連絡が入っている。その分地下鉄の利用客が増え混雑する可能性がある為、乗り切れなかったお客様の足となる都内、市内を走るバスの待機場所の打ち合わせをしていた。
バスの待機場所はステーションの直ぐ右隣に一時的に設け、其方から使って貰うと決まる。バスの手配も完了している。
代理としてこなす仕事は様々な物事に対処しなくてはならない。交通を指揮する会社やポケモン大量発生時による都市への影響を調べる研究所、ライモンシティでのイベントで客足が増えるだろう走行トレインの運行ダイヤ調整等々。
アチコチの会社と打ち合わせするそんなジンは、この後出張でホドモエシティへと向かわなければならない。
雨により交通が麻痺し利用者が増えるだろう明日で、指揮出来ないのが辛い。
きっと何かとトラブルが起きる。
部下と言える駅員達は何かあればジンに連絡を入れると言うが、信用なんてこれっぽっちも無い。
何せ相手は自身を信用せず上司だと思っていないのだから。


<<今日から7日間、ライモンシティ、ホドモエシティ、フキヨセシティは一日中雨。地区によっては豪雨となるでしょう。予想降水雨量は150以上と高く、シティからは河川の増水が心配される為、不用意に近付かれない様に警告と共に土砂の恐れがあると………>>


ポケギアからの通告。
きっと今頃地上は雨に見舞われているだろう。
そんな中出張で出歩くと思えば、凄く萎える気持ちがジンを襲った。













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