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誰かが其処に居た。
顔は分からず、身なり格好からして忍者何だってわかった。一つに結った髪の毛が長く、六年生の先輩を連想させる長さを持っている。
でも、足の先っぽ迄が無くて、
ああ、この人もなんだな。
フワフワ浮いているこの人も、戦で死んじゃった人なのかな?と考える。
でも、首もつながって居て、矢や刀で斬られた様な痕が無い。
綺麗な死に方をしたのかな?僕は気になってその人の顔を覗き込めば、キラリと光る何かが僕の思考を引っ張っていく。
何が光ったの?フワフワするその人の後ろへと回れば、その人の左手に糸が結ばれているのが分かる。
あれ?でも糸って普通光るものなのかな?
思い出すのは破れた制服を縫いだ時の記憶。光っていたものと言えば細い針位で糸は確かに光っていなかった事を再確認する。
なら、この人の左手に巻き付く糸は何?
また気になった。
だから僕は目の前で浮かび続けるその人の顔を再び覗き込んだ。
靄がかかったみたいにフヨフヨしていて、はっきりとその表情が伺えない。
傷一つ無く浮遊する半透明な人。
其処で気付いた。
何故この人は忍術学園に居るのだろうか?学園の周辺で戦が起きた話は聞いてない。
って事は、誰かが出掛けたその帰りに憑いて来ちゃったのかな?
先生はむやみやたらに話し掛けちゃダメだって言うけど、僕は気になって仕方ないんだ。
「ねぇ」
声を掛ける。
しかし、その人はずっと同じ方角しか見てなくて、僕の声に反応する素振りが無い。
他の人ならば僕が声をかければ、目を輝かせながら構って欲しいと反応してくるのにこの人はそれが無い。
何で?
「僕の声、聞こえないの?」
また顔を覗き込む。
やっぱり靄が邪魔ではっきりとしない。
僕に興味が無いのかな?
可笑しいな。
こう言った人達はみな僕達みたいに足を着くのに手を伸ばして、縋ってくるのにこの人にはそれが無い。
この人が見つめる先を僕も見てみる。
何も無かった。
ううん、忍術学園の校舎が有るんだけどこれと言ったものが無いんだ。
人も木も池も小屋も何もない場所、有るのは校舎。
何一つ変わら学園の校舎だけ。
「誰か居るの?」
聞いてみた。
答えは返って来なかった。そして、僕に気が付いて居るのか居ないのか分からないまま、その人は静かに空気の中へと融けて行った。
了
111228
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現43-総55
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