謳えない鹿3 | ナノ



とりあえず今日の委員会活動は終了。
時間も時間だ。もうそろそろ夕食の鐘が鳴れば、ほとんどの委員会活動は終了する。後は下見した地域を先生に報告すれば良いだけ。それに体育委員会の後輩達はこれ以上は動けないみたいだ。本当の所、少しだけ余っているこの体力でバレーをしようかと考えて居た小平太だが、未だに切れない後輩達の息切れに無理やり付き合わせる訳行かない。
バレーは明日にでも。
と、頭を掻いた時だった。

長屋廊下の向こう側、彼方から歩いてくる数人の忍たま生徒を小平太は捉えた。
ん?否、よく見ると6人だ。
一人の生徒に抱えられた一年生とその両足に二人。真ん中に六年生を挟み両側には三年生と、一年生が集る五年生。
そして真ん中に居るのが同級生の食満留三郎だと知ると、周りに居るのは用具委員会メンバーだと彼は理解する。しかし、用具委員会に五年生なんて居ただろうか?
ぼんやりと捉えていた五年生の姿をしっかりと映し出した瞳が見開かれた瞬間だった。





『此処の学園長の庵へ続く廊下の途中ですが、少しだけ床の軋み音が違って居ました』

「良く知っているな亮」

『ご挨拶時に一度だけ此方を通りました。流石にあのままではお年の学園長が落ちてしまわないかと』

「それでしたら食満先輩、三年生のくの玉から厠のドアの立て付けが悪いと話が入ってます」


両サイドから指定される場所を一つ一つチェック入れ、それらがどう言った風に壊れ補強作業を行うべきか……。
手元に大きな図を広げ、うーんと考え込む留三郎に、三年作兵衛と五年亮は足を止めた。

強引ながらの委員会活動を見学する目的だった亮。説明を聞き見ているだけと思って居た亮だが、留三郎の委員会を見学しに来たのならば体験しなくては意味が無いだろ?と言う台詞によって亮は用具委員会の行動に強制参加する羽目になったのは少し前の話だ。
とは言っても、壊れている箇所を教える。なんて内容なのだから、これならば亮でも出来る体験学習と成り代わって居た。


『後、お聞きしたいのですが、この校舎にある壁沿いの木付近にある大きなひび割れは仕様なので?』

「ひび割れだと?!文次郎の野郎またか!!」


わなわなと学園の図面を持つ手が震え、作兵衛が真っ青になるが亮はまたですか。と苦笑いを浮かべて居る。

本来ならば委員会活動を既に終わらせ解散となり、夕食の鐘が鳴るのを待つのみと言う状態。
しかし、他にも補強すべき場所があるとの事で、委員長、作兵衛そして亮が残る事になったらしい。そう成れば一年生だけ解散となるのだが、未だに平太が亮からしがみついて離れない事から他の一年生も便乗するかの様に亮へと飛び付いた。
不格好ながら一年生を引き連れ、補強の箇所の最終確認が今の現状と言う事だ。


「よし、それじゃ明日の用具委員会の仕事は西長屋の補給から始める」

お前たち、明日は用具小屋に集合だぞ!
委員長の明るい声に釣られた一年生と三年生の返事、彼はよし!とニッカリ笑うのだった。其処で自身の隣に居る亮へと振り返って見せた。


「亮、また見学に来ないか?」


白い歯を見せ、笑う用具委員長。その姿が厚い前髪を僅かに抜け閉ざされた丸い水晶へと映し出したものの、亮の表情は変わりはない。
抱えられる平太の指先がピクリと揺れれば、亮はその小さな体を静かに廊下へと下ろして行く。そして、僅かに首を横に振れば何でだ?と言わんばかりに六年生が首を傾げた。

『僕には補習授業が有りますので』

残念ながらそのお誘いには……。と、小さくなって行く言葉に自身が拾った用紙の束を思い出す。
そうか、あれは補習用のプリントだったか。

彼は、自身が預かっていた用紙を取り出し亮へと差し出せば、薄桜色は頭を下げ有難う御座います。と一言述べては受け取った。


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