謳えない鹿3 | ナノ



何故、初対面である平太が亮にしがみついて居るのかは本人ですら分からない。
一年生に引っ張られながら用具小屋の前へとやって来た時、作兵衛は何故一年生に?!と言った様子で目を丸くしながら驚いたがそれに委員長である留三郎がトドメを差した一言があると知ると、彼はご愁傷様です。と、だけしか言えなかった様だ。
さて、そんな彼の後ろに隠れていた一年生、名を一年ろ組下坂部平太。若干顔色が悪いのはこの少年のクラスの仕様であり、連鎖する様に暗い雰囲気を醸し出す。
内気の様な物腰だがこう見えてちゃんと自身の意識を持ち、我を通す面がある。つまり、人は見かけによらずだ。

その平太が初めて会った亮との自己紹介時、目を見開きぱちくりとまばたきをしたと思えば亮へと飛び付いたのだ。
用具委員一同驚いたが誰よりも驚いたのは亮だろう。自身の首に回される小さな手にどうかしましたか?と問うも平太はフルフルと首を振るだけ。それが亮と平太の初めての出会い談。

本来ならばいきなり初対面の人物に抱きつかれ慌てふためくものだろうが、亮本人はそう言った行動には出ず相手のやり方に身を任せるだけ。亮も彼(か)の少年平太とは初対面だ。
彼に何かした訳でも無ければ話した事すらもない。
この学園に編入してきた時に、様々な学年の忍たまやくの玉達に声を掛けられ会話も交わした。
その中には下級生も含まれて居り、一年生だけの相手とカウントをすれば頭を強打し記憶が無くならない限りは忘れはしない。だからこそ、平太の行動には目を丸くするが、一年生だから。と言う意味の解らない言葉だけで片付けられた。
その意味を知るのは、亮しか居ない。


地面の上に座り込んだ一年生三年生そして見学者五年生を見届け、留三郎も後を追うように座り込んだ。
そして持っていた何枚かの大きな紙。その中から一枚取り出した留三郎が自身と後輩達の間へと逸れを広げて見せる。


「見ての通りこれは学園内の廊下の図形だ。テスト週間が終わってから、俺なりに学園中を見回った時に見つけた壊れて居た箇所」


留三郎が指を指した先に付けられていた赤い丸。だがよく見ると其れは一つだけでは無く、至る所に描かれている。学園の門近くな場所から始まり食堂や風呂場へ向かう廊下、長谷と教室の別れ廊下等数え切れない数だ。
あまりの数の多さに亮の眉間に皺が寄る。この学園はそんなに古いのか?床が抜けると言った建物の劣化が起こす現象での補修ならば亮にも理解出来る。しかし、其の中に付けられる赤い丸は廊下と思われる図表上の真上では無く、その右端や何故か柱部分とズレた位置に付いていた。急いで学園内を回った為だろうか?それにしてはあまりにも数が多い……。


「この数……またですか?」

「ああ、またアイツ等だ」


作兵衛と留三郎のやりとり。その会話の中に含まれている脱力感はどこか重々しい雰囲気がある。また?アイツ等?一体何の事だ?


「亮はこの数と位置の意味分からないだろ?」

『ええ』

「大半が俺達同級生の仕業」

『は?』


学園内の壊れた箇所。それが最上級生の仕業だと言う。何故?今まで出会って来た六年生がそう言った行動に出る。亮は彼等が……と抱く。否……。此処に居る一年生、しんべヱと喜三太の2人が言っていた台詞を思い出す。
学園の私物を壊す。先生の説教。六年生の先輩達。いつも怒られて居る。
教室での会話には確かこう言った言葉だった筈。そして同学年の食満が発した台詞は、憶測だけでは無く事実へと変わった。


『最上級生が破壊的活動を?』

「真正面からそう言われると胸が痛むが、まぁ言葉通りだから否定出来ないがな」

『………学園生活に不満でも?』

「え?!違う違う!そう言った意味での破壊じゃ無い!!」


違う意味で捉えてしまった亮に食満は、パタパタと手を振る。そんな亮の隣に座っていた作兵衛がそっと身を寄せては、小さく耳打ちをするのだ。



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