謳えない鹿3 | ナノ



必要な物は五年生忍たまの友、筆記用具、そして和紙。
これらを持って廊下を歩く姿は普通の忍たまであるものの、それがバタバタと廊下を抜ける下級生達の流れに反する形で有れば少しばかり不思議である。
しかもその数は多く、廊下を駆けて行く彼らと行き違う度に視線を向けられるのだから何とも言えない心境となる。

午後の授業を終える鐘がなれば、同時に生徒達の安堵の溜め息がこぼれ落ちるのも一緒であった。
いつも通りであれば、立ち上がる事をせずそのままに開いていた忍たまの友で勉強しているが、生徒達はそうする事をせずパタンと閉じるや否やいそいそと荷物をしまう。
そして腕をぐっと伸ばした所で急に立ち上がり、教室から飛び出る様に走り出すのだった。


そう。委員会活動の時間なのだ。

今までは落第又は退学等するかも知れないと言う大きなテストの為に、学園のサブイベントとも言える委員会活動が休止となっていたのだ。

一年生から六年生そしていろは組と言う数多くの生徒が在学して居れば、その数に見合う様々な委員会が存在する。
忍者食委員会や南蛮語委員会等、名前を聞いただけで何となく活動内容が理解出来るものがある。中には実験委員会と言った訳の分からない委員会まで存在して居るのは此処だけの話しだ。

話を戻そう。

学園内にて数多く存在する委員会には、一年生の時に入会し卒業するその時までやり通さなければならない。と言う決まりがある。
一年生の時には委員会活動と言うその内容に頭と体が付いていけないようなものだが、数週間委員会活動して居れば嫌でもなれてしまうものだ。
活動内容もそうで有るが、その委員会の委員長の性格ややり方がそのまま委員会活動へ直前反映され慣れるな。と言う方が無理である。
だが、この委員会活動は意外と面白く生徒達の中には授業よりも委員会を主に!!と言う輩迄居たりするのは此処だけの話しでは無い。

委員会には各学年の生徒達が何人か集まり行動するのだが、やはり同学年の友達だけでは無く年下の後輩や先輩方と共に何かをやり遂げるのが楽しいらしい。

故に、休止中だった委員会が解禁となれば嬉しくて仕方ない。


廊下を走りたくなるのも無理は無い。と言う話しだ。

そんな彼らの間を逆らう様に歩くのが亮と言う訳だ。



学園に編入してきてやっと落ち着いて来た亮だが、不思議な事に未だに亮は委員会には所属して居ない。

まだこの学園に馴染みきって居ないのかそれとも委員会に所属する為に何かをしなければならないのか?理由は定かで無い為に、亮は無所属のままで居た。

だが、今の亮には委員会活動と言った物が無い方が良いのかも知れない。
その理由と言う物は……





「あれ?亮君!?」


突然目の前に降り注いだその存在。
ぶら下がる様に長い髪の毛が亮の視界の上半分占領すると同時に、名を呼ばれた存在は変わらぬ笑みを浮かべてみせたのだった。


『こんにちは。尾浜さん』


何故か天井裏から顔を覗かせていた彼だが、亮はこれと言って驚く素振りは見せなかった。
天井からスラリと音を立てずに降り立った彼は、自身の制服についた埃を取っては亮へと顔を上げて見せた。
しかし、その顔付きはどこかぎこちなく亮は首を傾げてる。


『どうかなさいましたか?』

「そのさ……テストの事何だけどさ……」


えっと……。そう頬を掻く勘右衛門の視線は酷く不安で、視点が定まらない中彼方此方へと眼は動く。そんな彼に僅かな間亮はパチクリと目を瞬きさせるも、直ぐに口元を抑え静かに笑ってみせた。


『退学する事な無いみたいです』


亮のその言葉を聞いた瞬間に、それ本当かい?!と喜んで声を弾ませた彼は、慌てて口を僅かに押さえては声量を控えめに呟いた。


「それ、本当かい?」

『はい、今から補習授業を受けに行くのですが、それにちゃんと出席すれば大丈夫らしいです』


補習授業。
下級生の頃にはよく受けていた物だが、こうやって上級生へと上がるにつれそれらを受ける事は無くなった。
あったとしてもそれは勘右衛門自身では無く、は組の彼らが受ける割合の方が多い。
きっとそれは実技と座学の両立を苦手とする彼ら独特のものだろう。いくらか座学が良い成績でも実技へと上手く活かせないのならば意味は無い。

しかし、亮が補習授業を受ける事により、退学を免れるのであればそれに越した事は無い。何より退学うんぬんの話を在学歴五年の勘右衛門が知って居れば、心配するなと言う方が無理な話である。
だが、これで少しは心配事が無くなった。
良かった。そう溜め息つく勘右衛門を厚い前髪越しからジッと見つめる亮だが、すぐさま口元を緩ませては持っていた教材を持ち直した。





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